第四十五篇 題目 新郎と新婦
百合花のしらべにあはせて伶長にうたはしめたる
コラの子のをしへのうた 愛のうた
- わが心はうるはしき事にてあふる われは王のために詠たるものをいひいでん わが舌はすみやけく寫字人の筆なり
- なんぢは人の子輩にまさりて美しく文雅そのくちびるにそゝがる このゆゑに神はとこしへに汝をさいはひしたまへり
- 英雄よなんぢその劍その榮その威をこしに佩べし
- なんぢ眞理と柔和とたゞしきとのために威をたくましくし勝をえて乗すゝめ なんぢの右手なんぢに畏るべきことををしへん
- なんぢの矢は鋭して王のあたの胸をつらぬき もろもろの民はなんぢの下にたふる
- 神よなんぢの寳座はいやとほ永く なんぢの國のつゑは公平のつゑなり
- なんぢは義をいつくしみ惡をにくむ このゆゑに神なんぢの神はよろこびの膏をなんぢの侶よりまさりて汝にそゝぎたまへり
- なんぢの衣はみは没藥 蘆薈 肉桂のかをりあり 琴瑟の音ざうげの諸殿よりいでて汝をよろこばしめたり
- なんぢがたふとき婦のなかにはもろもろの王のむすめあり 皇后はオフルの金をかざりてなんぢの右にたつ
- 女よきけ目をそゝげ なんぢの耳をかたぶけよ なんぢの民となんぢが父の家とをわすれよ
- さらば王はなんぢの美麗をしたはん 王はなんぢの主なりこれを伏拜め
- ツロの女は贈物をもてきたり民間のとめるものも亦なんぢの惠をこひもとめん
- 王のむすめは殿のうちにていとゞ榮えかゞやき そのころもは金をもて織なせり
- かれは鍼繍せる衣をきて王のもとにいざなはる 之にともなへる處女もそのあとにしたがひて汝のもとにみちびかれゆかん
- かれらは歡喜と快樂とをもていざなはれ斯して王の殿にいらん
- なんぢの子らは列祖にかはりてたち なんぢはこれを全地に君となさん
- 我なんぢの名をよろづ代にしらしめん この故にもろもろの民はいやとほ永くなんぢに感謝すべし
▲本篇の分解
(一〜九)新郎たる王
(十〜十七)新婦たる后
▲一節の『あふる』は原語にては『沸騰す』の意なり。聖靈に滿されし者は心中に火あるが故に心沸騰り、是非言はざるを得ざる也。而して其言ふ事は主の事なり。
▲然らば主に就て何を語るやといふに
一、其美はしさ(二始)──『なんぢは人の子輩にまさりて美しく』
二、其恩惠の言(二中程)──『文雅(英譯は恩惠(grace))そのくちびるにそゝがる』
三、其勝利の力(三、四)──『英雄よなんぢその劍その榮その威をこしに佩べし なんぢ眞理と柔和とたゞしきとのために威をたくましくし勝をえて乗すゝめ……』
四、其罪人を刺す力(五)──『なんぢの矢は鋭して王のあたの胸をつらぬき もろもろの民はなんぢの下にたふる』
五、其王たる權威(六)──『神よなんぢの寳座はいやとほ永く なんぢの國のつゑは公平のつゑなり』
六、其喜悅(七)──『なんぢは義をいつくしみ惡をにくむ このゆゑに神なんぢの神はよろこびの膏をなんぢの侶よりまさりて汝にそゝぎたまへり』
我等の心中に聖靈の熖あり熱あらば主イエスに就て此六の事を言表すべき也。
▲新郎は斯る者なるが故に新婦は十節の事を勸めらる。
一、『女よきけ目をそゝげ』──明白に主イエスの美を見よ
二、『なんぢの耳をかたぶけよ』──聖聲を聞き之に聴從へ
三、『なんぢの民となんぢが父の家とをわすれよ』──世を離れ世に屬るものを捨てよ、
即ち此は獻身の勸告なり。主イエスの美はしさを明かに見て身も魂も獻げよと也。
▲斯く主に獻身すれば其結果
一、主は其愛を表し給ふ(十一始)──『さらば王はなんぢの美麗をしたはん』
二、主を禮拜するを得(十一終)──『王はなんぢの主なりこれを伏拜め』(禮拜の心は最も幸福なる惠又最も高き經驗なり)
三、他の人をも喜ばす(十二)──『ツロの女は贈物をもてきたり民間のとめるものも亦なんぢの惠をこひもとめん』
四、主の新婦として適はしき者とせらる(十三、十四)──『王のむすめは殿のうちにていとゞ榮えかゞやき そのころもは金をもて織なせり かれは鍼繍せる衣きて王のもとにいざなはる』(若し人己よりも身分低き女と結婚すれば世の人は其人を輕蔑す、是が故に主も我等を御自身に適はしきものとなし、御自身の狀に象らせたまふ也)
五、他の人之によりて救を得るに至らん(十六)──『なんぢの子らは列祖にかはりてたち なんぢはこれを全地に君となさん』
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