詩 篇 の 靈 的 思 想

          ビー・エフ・バックストン講述
          米   田   豊   筆記



ちょ  げん



 詩篇を繙くに當りて先づ下の三つの事を記憶すべし。
 第一 本書によりて神の御性質、その稜威みいづその聖力みちから等を學ぶ事を得。又格別に新約においあらはされたる父なる神の御性質を本書において讀むなり
 神はその聖旨みこゝろあらはすに種々なる方法をもってしたまふ。すなはあるひは歴史により、あるひは預言により、あるひは詩歌により、あるひは又書翰によりてこれあらはしたまへり。就中なかんづく詩歌は最も聖旨みこゝろあらはされたるものにして、詩篇は實にれが讃美歌ともいふべきなり
 第二 詩篇は神が我等に與へ給へる讃美歌たると共に、これは又神が我等に授け給へる祈禱書なり。聖靈はこれによりて祈禱いのりことばを示し、祈禱いのりの順序を示し、又祈禱いのりの心を敎へ給ふ。れば度々この祈禱書を繙き、その敎ふる所に從って祈るべし。例へば神の導きを求むる時には第五篇を、聖顏みかほの光を求むる時には第四篇等の如し。
 詩篇はく多く祈禱いのりいて記さるゝものなるが、その各篇のをはりには概ね祈禱いのり答へられたりとの信仰にいて記さる。我等もかく祈禱いのりをはりおいて信仰を抱かざるべからず。我等は詩篇におい祈禱いのりの大膽を學ぶ。例へば『ヱホバよ起き給へ』などのことばは、詩篇にいて敎へらるゝ事なくば知るあたはざる句にして、これ實にすこしも遠慮もなき大膽なる祈禱いのりことばなり。我等も詩篇に敎へられて、如斯かくのごとくはゞからずして神の聖前みまへでゝ大膽なる祈禱いのりを捧ぐる事を得るなり
 第三 新約書の引照の多くが詩篇より引かれたるを見て、本書が如何いかに大切なるかを知るべし。

◎詩の五卷とモーセの五卷

 詩篇全體を分類して五卷とす。しかしてれが如何いかにモーセの五卷と符合せるかを見よ。
   第一卷 より第一篇いたる第四十一篇
         創世記と符合す
      題目 幸福さいはひ聖潔きよき
   第二卷 より第四十二篇いたる第七十二篇
         出埃及記しゅつえじぷときと符合す
      題目 試練こゝろみ救贖すくひ
   第三卷 より第七十三篇いたる第八十九篇
         利未記れびきと符合す
      題目 靈的暗黑と交際まじはり
   第四卷 より第九十篇いたる第百六篇
         民數記と符合す
      題目 荒野あれのの旅と保護
   第五卷 より第百七篇いたる第百五十篇
         申命記と符合す
      題目 恩寵めぐみと感謝

 各卷の結末をはりは讃美頌榮をもって終り、アメン、アメンを附記せられたり(四十一・十三七十二・十九八十九・五十二百六・四十八百五十篇全體)。最終の第百五十篇は全體が讃美頌榮のことばなり。

◎詩篇の預言

 詩篇中には主イエス・キリストについて預言せられたる處多し。
 第一 第八篇五〜八節──主イエスの受肉降誕(incarnation)
   ヘブル書二・六〜九は上に對する聖靈の註釋なり。
 第二 第廿二篇全體──十字架とあがなひ
   この篇を讀みて十字架上の主の御心膓ごしんちゃうあぢはふ。
 第三 第十六篇十、十一節──主イエスの復活よみがへり
   のペテロはペンテコステの説敎中にこれを引照して主の復活よみがへりあかしせり(使徒行傳二・廿五〜廿八)。
 第四 第廿四篇七〜十節──主イエスの昇天
   主は十字架のたゝかひに勝利を得てあきらかに昇天し給ひし事を見る。
 第五 第百十篇一、四節──キリストの國と祭司
   使徒行傳二・卅四〜卅六ヘブル書一・十三おなじく五・六等を對照せよ。
 是等これらの引照によりて、主イエスに對する預言の如何いかに明瞭なるかを知らん。勿論此外このほか多くの預言ありといへども、こゝにはたゞ聖靈の註解によりて明白に示されたるものゝみを掲げたるなり。讀者は聖靈のしめしに從ひて他の處をも調ぶべし。又此等これらによりて如何いかに詩篇を學ぶべきものなるかをも悟るべし。
 今試みにその例を擧げんに、キリストの再臨については第九十六篇 九十七篇 九十八篇を見よ。この三篇は格別に主の再臨を預言せるものなり。また第百四十六篇は主イエスの奇跡について預言せられたるものなり



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