第四十九篇
伶長にうたはしめたるコラの子のうた
- もろもろの民よきけ 賤きも貴きも
- 富るも貧きもすべて地にすめる者よ なんぢらともに耳をそばだてよ
- わが口はかしこきことをかたり わが心はさときことを思はん
- われ耳を喩言にかたぶけ琴をならしてわが幽玄なる語をときあらはさん
- わが踵にちかゝる不義のわれを打圍むわざはひの日もいかで懼るゝことあらんや
- おのが富をたのみ財おほきを誇るもの
- たれ一人おのが兄弟をあがなふことあたはず 之がために贖價を神にさゝげ
- 之をとこしへに生存へしめて朽ざらしむることあたはず
- (靈魂をあがなふには費いとおほくして此事をとこしへに捨置ざるを得ざればなり)
- そは智きものも死おろかものも獸心者もひとしくほろびてその富を他人にのこすことは常にみるところなり
- かれら竊におもふ わが家はとこしへに存りわがすまひは世々にいたらんと かれらはその地におのが名をおはせたり
- されど人は譽のなかに永くとゞまらず亡びうする獸のごとし
- 斯のごときは愚かなるものの途なり 然はあれど後人はその言をよしとせん セラ
- かれらは羊のむれのごとくに陰府のものと定めらる 死これが牧者とならん 直きもの朝にかれらををさめん その美容は陰府にほろぼされて宿るところなかるべし
- されど神われを接たまふべければわが靈魂をあがなひて陰府のちからより脫かれしめたまはん セラ
- 人のとみてその家のさかえくはゝらんとき汝おそるるなかれ
- かれの死るときは何一つたづさへゆくことあたはず その榮はこれにしたがひて下ることをせざればなり
- かゝる人はいきながらふるほどに己がたましひを祝するとも みづからを厚うするがゆゑに人々なんぢをほむるとも
- なんぢ列祖の世にゆかん かれらはたえて光を見ざるべし
- 尊貴なかにありて暁らざる人はほろびうする獸のごとし
▲人を救ふ能はざるものは
一、富(六、七)──『おのが富をたのみ財おほきを誇るもの たれ一人おのが兄弟をあがなふことあたはず』
二、智慧(十)──『智きものも死』
三、譽(十二)──『人は譽のなかに永くとゞまらず』
凡ての世人は此三のものによりて幸福を得んと欲するも、是等のものによりては決して眞の幸福を得る能はず、神のみ全き救を與へて眞の幸福を與へ給ふ。即ち
『されど神われを接たまふべければわが靈魂をあがなひて陰府のちからより脫かれしめたまはん』──十五節
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