第八十九篇 題目 三つの幸福
エズラ人エタンのをしへの歌
- われヱホバの憐憫をとこしへにうたはん われ口をもてヱホバの眞實をよろづ代につげしらせん
- われいふ あはれみは永遠にたてらる 汝はその眞實をかたく天にさだめたまはんと
- われわが撰びたるものと契約をむすびわが僕ダビデにちかひたり
- われなんぢの裔をとこしへに固うしなんぢの座位をたてて代々におよばしめん セラ
- ヱホバよもろもろの天はなんぢの奇しき事跡をほめん なんぢの眞實もまた潔きものの會にてほめらるべし
- 蒼天にてたれかヱホバに類ふものあらんや 神の子のなかに誰かヱホバのごとき者あらんや
- 神はきよきものの公會のなかにて畏むべきものなり その四周にあるすべての者にまさりて懼るべきものなり
- 萬軍の神ヱホバよヤハよ汝のごとく大能あるものは誰ぞや なんぢの眞實はなんぢをめぐりたり
- なんぢ海のあるゝををさめ その浪のたちあがらんときは之をしづめたまふなり
- なんぢラハブを殺されしもののごとく擊碎きおのれの仇どもを力ある腕をもて打散したまへり
- もろもろの天はなんぢのもの地もまた汝のものなり 世界とその中にみつるものとはなんぢの基したまへるなり
- 北と南はなんぢ造りたまへり タボル、ヘルモンはなんぢの名によりて歡びよばふ
- なんぢは大能のみうでをもちたまふ なんぢの手はつよく汝のみぎの手はたかし
- 義と公平はなんぢの寶座のもとゐなり あはれみと眞實とは聖顏のまへにあらはれゆく
- よろこびの音をしる民はさいはひなり ヱホバよかれらはみかほの光のなかをあゆめり
- かれらは名によりて終日よろこび 汝の義によりて高くあげられたり
- かれらの力の榮光はなんぢなり 汝の惠によりてわれらの角はたかくあげられん
- そはわれらの盾はヱホバに屬われらの王はイスラエルの聖者につけり
- そのとき異象をもてなんぢの聖徒につげたまはく われ佑助をちからあるものに委ねたり わが民のなかより一人をえらびて高くあげたり
- われわが僕ダビデをえて之にわが聖膏をそゝげり
- わが手はかれとともに堅くわが臂はかれを强くせん
- 仇かれをしへたぐることなし 惡の子かれを苦しむることなからん
- われかれの前にそのもろもろの敵をたふし彼をにくめるものを擊ん
- されどわが眞實とわが憐憫とはダビデとともに居り わが名によりてその角はたかくあげられん
- われ亦かれの手を海のうへにおき そのみぎの手を河のうへにおかん
- ダビデ我にむかひて汝はわが父わが神わがすくひの岩なりとよばん
- われまた彼をわが初子となし地の王たちのうち最もたかき者となさん
- われとこしへに憐憫をかれがためにたもち 之とたてし契約はかはることなかるべし
- われまたその裔をとこしへに存へ そのくらゐを天の日數のごとくながらへしめん
- もしその子わが法をはなれ わが審判にしたがひて步まず
- わが律法をやぶりわが誡命をまもらずば
- われ杖をもてかれらの愆をたゞし鞭をもてその邪曲をたゞすべし
- されど彼よりわが憐憫をことごとくはとりさらず わが眞實をおとろへしむることなからん
- われおのれの契約をやぶらず己のくちびるより出しことをかへじ
- われ曩にわが聖をさして誓へり われダビデに虛偽をいはじ
- その裔はとこしへにつゞき その座位は日のごとく恒にわが前にあらん
- また月のごとく永遠にたてられん 空にある證人はまことなり セラ
- されどその受膏者をとほざけて棄たまへり なんぢ之をいきどほりたまへり
- なんぢ己がしもべの契約をいみ 其かんむりをけがして地にまでおとし給へり
- またその垣をことごとく倒し その保砦をあれすたれしめたまへり
- その道をすぐるすべての者にかすめられ隣人にのゝしらる
- なんぢかれが敵のみぎの手をたかく擧そのもろもろの仇をよろこばしめたまへり
- なんぢかれの劍の刃をふりかえして戰鬪にたつに堪へざらしめたまひき
- またその光輝をけしその座位を地になげおとし
- その年若き日をちゞめ恥をそのうへに覆たまへり セラ
- ヱホバよかくて幾何時をへたまふや 自己をとこしへに隱したまふや 忿怒は火のもゆるごとくなるべきか
- ねがはくはわが時のいかに短かきかを思ひたまへ 汝いたづらにすべての人の子をつくりたまはんや
- 誰かいきて死をみず又おのがたましひを陰府より救ひうるものあらんや セラ
- 主よなんぢが眞實をもてダビデに誓ひたまへる昔日のあはれみはいづこにありや
- 主よねがはくはなんぢの僕のうくる謗をみこゝろにとめたまへ
- ヱホバよ汝のもろもろの仇はわれをそしりなんぢの受膏者のあしあとをそしれり 我もろもろの民のそしりをわが懷中にいだく
- ヱホバは永遠にほむべきかな アーメン アーメン
本篇に『憐憫』又『眞實』といふ語度々出づ。
一節 憐憫 眞實 | 八 節 眞實 | 廿八節 憐憫
二節 憐憫 眞實 | 十四節 憐憫 眞實 | 卅三節 憐憫 眞實
五節 眞實 | 廿四節 憐憫 眞實 | 四十九節 憐憫 眞實
故に此二つの語は本篇に於て大切なる語なり。神は常に此二つを一緖に表し給ふ。其憐憫の故に我等の罪を赦し、又其眞實によりて約束を必ず成就し給ふ。
▲本篇の大別
(一〜卅七)過去に於る神の御業を語る
(卅八〜五十二)現在の狀態を述べ、又神の約束を論じて今恩惠を注がれんことを要求す
▲十九〜廿七節を格別に注意して讀むべし。此にダビデの事記さるゝも此は他の救主即ち主イエスの雛型と預言なり。以下の七つの要點を見よ。
一、救主は力ある者也(十九中程)──『われ佑助をちからあるものに委ねたり』(マタイ廿八・十八對照)
二、救主は民の中より撰ばれたる者也(十九終)──『わが民のなかより一人をえらびて高くあげたり』(ヨハネ一・十八對照)
三、救主は神の聖旨に適ふ者也(廿)──『われわが僕……をえて』(ヨハネ八・廿九對照)
四、救主は神より膏注がれし者也(廿終)──『之にわが聖膏をそゝげり』(使徒十・三十八對照)
五、救主は神偕に在して强くし給へる者也(廿一)──『わが手はかれとともに堅くわが臂はかれを强くせん』(ヨハネ十四・十對照)
六、救主は神の初子也(廿七始)──『われまた彼をわが初子となし』(ヨハネ一・十四對照)
七、救主は諸王の王也(廿七終)──『地の王たちのうち最もたかき者となさん』(默十九・十六對照)
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