第十七篇  題目 汝のつばさの蔭 (八節參照)



  1. ダビデの祈禱(いのり)
    あゝヱホバよ公義(たゞしき)をきゝたまへ わが哭聲(なくこゑ)にみこゝろをとめたまへ いつはりなき口唇(くちびる)よりいづる我がいのりに耳をかたぶけたまへ
  2. ねがはくはわが宣告みまへよりいでてなんぢの目公平をみたまはんことを
  3. なんぢわが心をこゝろみ また夜われにのぞみたまへり 斯てわれを糺たまへど我になにの惡念(あしきおもひ)あるをも見出(みいで)たまはざりき わが口はつみを犯すことなからん
  4. 人の行爲(おこなひ)のことをいはゞ我なんぢのくちびるの言によりて暴(あらぶ)るものの途をさけたり
  5. わが步(あゆみ)はかたくなんぢの途にたち わが足はよろめくことなかりき
  6. 神よなんぢ我にこたへたまふ 我なんぢをよべり ねがはくは汝の耳をかたぶけてわが陳(のぶ)るところをきゝたまへ
  7. なんぢに依賴むものを右手(みぎのて)をもて仇するものより救ひたまふ者よ ねがはくはなんぢの妙なる仁慈(いつくしみ)をあらはしたまへ
  8. 願くはわれを瞳のごとくにまもり汝のつばさの蔭にかくし
  9. 我をなやむるあしき者また我をかこみてわが命をそこなはんとする仇よりのがれしめ給へ
  10. かれらはおのが心をふさぎ その口をもて誇(ほこり)かにものいへり
  11. いづこにまれ往(ゆく)ところにてわれらを打圍み われらを地にたふさんと目をとむ
  12. かれは抓裂(かきさか)んといらだつ獅(しゝ)のごとく隱(しのび)やかなるところに潜みまつ壯獅(わかしゝ)のごとし
  13. ヱホバよ起(たち)たまへ ねがはくはかれに立對(たちむか)ひてこれをたふし御劔をもて惡(あし)きものよりわが靈魂(たましひ)をすくひたまへ
  14. ヱホバよ手(みて)をもて人より我をたすけいだしたまへ おのがうくべき有をこの世にてうけ 汝のたからにてその腹をみたさるゝ世人(よのひと)より我をたすけいだし給へ かれらはおほくの子にあきたり その富ををさなごに遺す
  15. されどわれは義にありて聖顏をみ 目さむるとき容光(みかたち)をもて飽足ることをえん

▲本篇に『汝の(Thy)』といふ語(ことば)度々記さる。是によりて神の樣々のものを知る。詩人は祈禱の中に色々の方面より具(つぶ)さに又懇ろに主を思へり。
 (なんぢの)みまへ(presence)(二)
 なんぢの目(二)
 なんぢのくちびる(四)
 なんぢの途(五)
 汝の耳(六)
 なんぢの‥‥‥仁慈(七)
 汝のつばさの蔭(八)
 (なんぢの)御劔(十三)
 (なんぢの)手(十四)
 汝のたから(十四)
 (なんぢの)聖顏(十五)
 (なんぢの)容光(十五)
▲詩人は此神の前に自己を注ぎ出して祈れり。
 わが哭聲(一)
 我がいのり(一)
 わが宣告(二)
 わが心(三)
 わが口(三)
 わが步(五)
 わが足(五)
 わが陳ぶるところ(六)
 わが靈魂(十三)
▲八節に『汝のつばさの蔭』といふ語あり。此語は詩篇の中に度々記さるゝ語にて、是を硏究する事は益多し。以下の引照を玩味せよ。
(一)十七・八=救──『ねがはくは‥‥‥汝のつばさの蔭にかくし』
(二)三十六・七=滿足──『人の子はなんぢの翼の蔭にさけどころを得』
(三)五十七・一=平安(やすき)──『われ禍害(わざはひ)のすぎさるまではなんぢの翼のかげを避所とせん』
(四)六十一・四=神との交通──『われ永遠になんぢの帷幄(あげばり)にすまはん 我なんぢの翼の下にのがれん』
(五)六十三・七=喜樂(よろこび)──『我なんぢの翼のかげに入てよろこびたのしまん』
(六)九十一・四=神の愛に感ず──『かれその翮(はね)をもてなんぢを庇(おほ)ひたまはん なんぢその翼の下にかくれん』
 (鳥が其雛を憩はしむる爲に翼を展げて蔽ふ如く、神は其翮を以て我等を庇ひ給ふ也。斯て雛が母鳥(めんどり)の温味(あたゝかみ)を感ずる如く主の愛を感ずる也)
(七)ルツ二・十二=信賴──『ヱホバ即ち汝がその翼の下に身を寄んとて來れる者』
 (同書三・九の『覆ふ』の字も原語にては二・十二と同じ。其處にては新郎(はなむこ)の愛を感ずる也)
(八)マタイ廿三・三十七=災禍(わざはひ)より救はる──『牝鶏のその雛を翼の下に集むるごとく、我なんぢの子どもを集めんと爲し』



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