第九回 回復の始め



第八章〜第九章七節


大洪水の後 (更生の道)

 十字架にある救ははなはだ幸福である。これは我々の信ずるキリスト教の真髄である。この十字架の救のほかはただ亡びと永久の苦痛である。けれどもこの十字架はまた更生の入口である。キリストの贖罪により罪の赦される経験は真に生まれ更わる経験、また新生の生涯の入口である。ノアとその家族は方舟はこぶねに閉じ込められて恐ろしい洪水から救われていたのであるが、幸いにも今一度方舟から出でて、さらに勝れる幸福と一層愈れる自由と一段進んだ生活に入るようになったのである。この八章において、第一、更生の道、第二、更生の生涯の結果が、絵のごとくに明らかに描写されている。

一 更生の道

 一、窓を開くこと、すなわち仰ぎ見ること (八章六節)
 四十日の後に雨が全く止んだからノアは窓を開いた。第六章で既に見たとおり方舟の窓は天上に造ってあるから、ノアは窓から周囲を見ることができぬ。すなわち洪水が地から退いたかどうか分からなかった。ただ上を仰いで、雲が晴れ雨が止んだことを知ったのである。これは実に幸福である。我々の信仰の途もその通りである。仰いで雲霧の除かれた青空を見れば実に喜ばしい。これは更生の道の第一段階である。審判の雨が止み雲霧がもはや無くなったことを信仰の窓を通して明らかに悟る。これが更生の生涯に入る第一の入口である。
 二、確信を求めること、すなわち鴉を放ち出すこと (八章七節)
 ノアは青空を見てもちろん非常に喜んだ。上の雲が晴れ雨が止んだことを見て感謝したけれども、彼はこれをもって満足せず、周囲の水が退いたことをも知りたいと思って方舟から鴉を出したのである。しかるに鴉は出たまま長く待てども帰って来ぬ。鴉は水の上に浮かんでいる屍体に飛びかかり、そこに足の休め所と食物を見出したので容易に帰らない。これはちょうど絵のように描いた面白い教訓である。鴉は人間生来の理解力の型である。我々も救の確信を得るために自分の理解力を働かせ、何か明らかな証拠を探し求めようとする。けれども様々なこの世の理屈に関わってこれに満足を求め、わが心に真の平和を来らす使命の言葉は携えて帰らぬ。すなわちこれによって救の確信を得ることはできない。
 三、信仰の忍耐、聖霊なる鴿 (八章八、九節)
 鴉の失敗を見たノアは今度は鴿を送り出した。鴿は鴉と違って穀物のような潔い食物でなければ満足することができぬから、長い間飛び回った末、休み所を見出さずして方舟に帰って来た。そこでノアは手を伸ばしてこの愛らしき使を再び己が許に受け入れた。これは信仰の忍耐を表すはなはだ美しい絵ではなかろうか。我々は長い間信仰の確信を求める。まず自己の理解力をもってこれを得んとするが、これは前に言えるごとく失敗である。しかしてどうしても天来の聖霊によらねばならぬということを悟ったならば、よしやその確信がまたすぐに来らぬとも、ノアのごとく忍耐をもって神の時の来るまで待たねばならぬ。
 四、聖霊の証、鳩と新葉 (八章十、十一節)
 それからまた七日経って、ノアは今一度鴿を放ち出した。このたびも鴿は夕方までも帰って来なかった。鴿は知られるごとく一時間百哩くらい飛ぶものであるから、非常に遠いところまで探しに行ったに相違ないが、夕方にいたってついにその嘴にオリーブの新葉を携えて帰って来た。これもまた信仰の経験の美しい絵である。言えるごとく鴿は聖霊の型である。鴿がもはや審判の水が退いた証拠としてオリーブの新葉を携えて来たのは、聖霊が神の御言を我々の待ち望み疲れ果てた心に持ち来りたもうことを表している。これは多くの人の霊的経験に合うことである。もはや罪赦されて生まれ更わって神の子となったという証拠、すなわち聖霊の証を待ち望む者に、聖霊が当て嵌めてくださる御言の一句が来る時に、霊魂は感謝と喜びをもって確信することができる。
 五、神の御命令を待つこと (八章十五、十六節)
 真の自由を得る道につきて今まで学んだ階段は非常に大切である。ノアはもちろんこれによって満足したのである。けれども大胆に方舟から出てしまうわけには行かなかった。彼の心中には平和と喜びと確信があったに相違ない。けれども方舟から出ることのできるまで神の的確なる御命令を待ったのである。我々も救の確信ができてもなお従順に神に祈って一歩一歩御命令を待たねばならぬ。
 六、自由の第一歩 (八章十八節)
 もう一度ノアは乾いた地に足を踏み出した。ああこれは何たる驚くべき経験であったであろう。ノアの心に何たる感謝と讃美と厳かなる喜びが湧き出たことであろうか。ただ数週間前にはこの世は驚くべき文明と、名ある人等のせわしき生活とをもって満たされ、何処を見回しても活発な商工業の運動が行われていたのに、今この方舟から出て見れば全く沈黙の世界と化している。何処を見回しても人一人もなく、もちろん何処にも商工業の音は聞こえず、いずれの方に向かっても以前の立派な建物や美しき宮殿の跡形もない、荒涼たる有様である。この恐るべき滅亡が数日の間に全世界に臨んだのである。ノアとその家族はこの実に想像することのできない恐るべき経験を通して来たのであるから、何たる畏れ多い観念が彼らの心に溢れたことであろう。我々も真の救というものは神の奇蹟であるということ、すなわち生まれ更わりの経験の真の意味が解ったならば、ノアのように驚くべき畏れと喜びの観念をもって新生涯を始めるべきである。
 七、感謝の供え物 (八章二十〜二十二節)
 ノアが方舟を出て今一度堅い土を足に踏んだ時に、壇を築いて感謝と讃美の徴として犠牲を献げた。これは真の燔祭はんさいである。神はこの燔祭を見、これを喜びたもうたのである。この燔祭を献げることは真の霊的本能の働く証拠である。我々はこの救いを覚えれば覚えるほど、謙って主イエスの燔祭を神の前に訴え、我々の救はキリストの犠牲の御いさおしに由りてのみできたものであると覚えるばかりでなく、我々自身も神に従って自己を燔祭として献げて神を喜ばし奉るべきである。
 以上学び来れるところは真の更生の生涯に入る階段である。我らはもはや自己の経験としてこれを知っているであろうか。もはや更生の生涯に入っているのであろうか。もしそうであれば、必ずこの七つの階段は真の霊的経験に合うものであると覚るべきはずである。

二 更生の生涯の結果

 もはや我らは更生の道を見たのであるが、これからその更生の生涯、すなわち真の自由の生涯の結果が現れて来る。これからこれを学ぼう。
 一、実を結ぶこと (九章一節)
 これは実に更生の生涯の明らかな徴である。これは更生せしめたもう神の御目的であり、また我々の願いであり、この世にとっても要するところである。ロマ書第六章と七章には、新しき生命に歩むことばかりでなく、また神のために実を結ぶことが書かれてある(ロマ書七章四節)。実を結ぶことがなければ人間の救の目的に達することはできぬ。これは救われてからのノアに対する神の第一の御命令であったのである。
 二、支配の権 (九章二節)
 神はノアに一切の動物を治める権利を賦けたもうた。しかして特別に動物が人間を畏れるようになった。我々信者も救われて更生の生涯に入れば、必ず未信者が我々を畏れるようになるのである。時として弱い信者は不信者を恐れるけれども、実際不信者が信者を畏れて交際することを憚るようになる。これが当然である。使徒行伝二章四十三節を見れば『ここに人みな敬畏おそれを生じ』とある。また同四章十三節、五章十一節、十九章十七節にあるとおり、彼らは当時の迫害を懼れず、却って神を畏れる畏敬の念があったので、不信者が信者とその力を見て非常に懼れるようになった次第である。これは真に更生の生涯の一つの徴、また聖霊に満たされたる第一の証拠である。
 三、豊かなる食物 (九章三節)
 第三の結果は豊かなる食物である。神はノアとその子孫にすべてのものを何でも食らう自由を与えたもうたが、我々にもそのような自由がある。テモテ前書四章三〜五節に書いてあるとおり、すべて神の造りたもうたものは善きもので、感謝と讃美をもって受けるならば祈禱と御言によって潔められるのである。霊的方面においても神は豊かなる霊の糧を与えてくださるのである。
 四、生命の保護 (九章五節)
 もちろんこの大洪水から救われて新しい地のできたことは千年期時代の預言的模型であるに相違ない。その時代における法則がここに模型的に録されているのである。けれども今でも神は生命の保護を与えるように約束していたもうのである。
 五、法律を施行する権 (九章六節)
 或る人は恩寵の時代において死刑を行うことは神の恩寵に合わないと考える。けれどもこのことの録されたる時は律法の時代の未だ来ない前である。さればこれはまた恩寵の時代である今日に適用すべきことである。すなわち神はここに明らかに永久の御旨を示したもうたのである。すなわち人を殺せばまた人に殺さるべきである。
 六、安全の約束
 神は今一度水をもってこの世を亡ぼすことはないという約束を立てたもうた。これは全き安全の約束である。
 七、安全の保証
 この約束につきて契約を立て、これに対する徴を与えたもうた。これは安全の約束の保証である。このことにつきて次回において更に詳説することにしよう。



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