これよりヤコブは帰国の途に上るのであるが、ここに彼の人格と性質がだんだんと表れてくる。これまで我等は彼の狡猾なる詐りのある性質の欠点を見たことであるが、この三十一章には彼の善い点が見えている。
ヤコブの帰国を思い立ったにつきて三つの理由があった。(一)ラバンの子等が嫉みを起して彼を怨んだこと(一節)、(二)ラバン自身は割合に親切に取り扱って来たけれども、だんだんとヤコブの所有の増し加わり行くを見て快く感ぜぬようになったこと(二節)、(三)ちょうどそのとき神の御命令があった(三節)。彼は以前にも故郷に帰りたかったけれども、このたびは神の御命令があったので断然と決心したのである。彼は二十年間ラバンに仕えて神の示したもうまで待ったのである。
神の
彼は欠点の多い者であったが善き点もあった。それは彼がつねに神を憶えたことである。彼は
ヤコブはいよいよ出立せんとするに当たって妻等に相談したが、二人の妻がともに父よりも夫を信用して、五百
ヤコブはついにラバンの許を去ったが、正直にただ自分のものを携え出たのみで、ラバンのものは何をも取らなかった。ラバンは怒って彼の後を追ったが、神は彼を護りたもうた。すなわちラバンは今一度彼を連れ帰り使役せんと願ったけれども、神はこれに干渉してとどめたもうた(二十四節)。
ラバンは二つのことをもってヤコブを責めた。一つは何故に逃げ出したかということ、一つはテラピムを盗んだことである。第一のことは無論偽善である。彼はヤコブをなお長く使役せんとしたのみで、歓喜と歌をもって送別するような考えのなかったことは明らかである。第二のテラピムを盗んだのはラケルの罪で、ヤコブは全く知らなかったのである。既に言った通り彼はラバンのものを何一つ取らなかったのである。
これからヤコブはラバンを責めて自ら弁疏する。四〜十三節において彼の神に対する生涯を見たが、今ここで彼の人に対する生涯を見る。この弁解に対してラバンは何をも否定するところがなかった。彼のこの弁解は真実である。すなわち彼の二十年間の奉仕は
一、行き届いた有効な奉仕であった (三十八節上)
二、正直な奉仕であった (三十八節下、三十九節)
三、忠実な犠牲的な奉仕であった (四十節)
四、終始不変の着実な奉仕であった (四十一節)
五、報われざる奉仕であった (四十二節)
六、しかしてかかる奉仕の秘訣は『神偕に在す』ことであった(四十二節上)
七、奉仕の報いとして神はラバンに干渉して彼を害せぬように保護した (四十二節下)
『わが父の神アブラハムの神イサクの
これによってやコブの人となりがわかる。彼は忍耐深く、神に対しても忠実であった。
ヤコブは今は憚るところなくその心を打ち明けて、ラバンが自分を害せぬのは父イサクを恐れるからであると指示した。ラバンはこれを聞き、今更に恐怖を起し、彼の弁解を否定せず、汝の妻子はわが娘わが孫である、何の害をも加えるべきでないと言い、さらに契約を結ばんと言い出した。ヤコブは寛大にこれを容れて契約を結んだ。ヤコブはラバンが平素から神を畏れないのを知っているから彼を信用せず、わざとイサクを怖れる恐れを指して誓った(五十三節)。これは実際ラバンに対して効果ある方法であった。ここにもヤコブの実際的な性質が見えている。
かくヤコブの性格に
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