本書は、驚くべき天啓書、創世記に対して、敢えて批評的或いは歴史的註解を試みんために書くのではない。もちろん、所々これらの方面に言及することもある。けれどもこれは主たる目的ではない。余は本書において、信仰篤き熱心なるキリスト者の益となるべき、幾許かの思想を暗示せんと務むるに過ぎない。しかし、読者がこれによって、神の
およそ聖書の研究には三重の解き方がある。すなわち歴史的、霊的、預言的である。『
我らが聖書と
創世記の組織を調べてみれば、これもまた興味と教訓とを与えるものである。まず、創世記は二つの部分から成り立っている。
第一部は一章から十一章まで、第二部は十二章から五十章までである。しかして全人類のことを取り扱う第一の部分はただ十一章で、残りの三十九章は殆ど全く四人の人の生涯に関した記事であるということは、注意すべきことである。ついでに注意すべきことは、アダム、ノア、アブラハムは聖書中の三大人物、アダムは旧き種族のかしら、ノアは新種族のかしら、アブラハムは選ばれたる種族のかしらであるということである。今一層詳しく研究してみると、創世記は、一つの短き緒言と十の章とでも言うべきものに分かれている。しかしてその初めに一々『……の
創世記は『始め』の書である。これは『聖書の苗床』と
一、恩寵の領域、すなわち物質的宇宙の始め。
二、恩寵の主体、すなわち人類の始め。
三、恩寵の起因、すなわち罪の始め。
四、恩寵の性質、すなわち贖罪の始め。
五、恩寵の範囲、すなわち諸国民の始め。
六、恩寵の管、すなわちユダヤ人の始め。
七、恩寵の結果、すなわち信仰と献身の生涯を始め。
創世記に充ちている豊富なる霊的教訓の中より、今ここには、我らが直ちに注意するように、ただ、人の霊魂中における神の生命の発達を示す、七つの驚くべき絵画を選ぶに留めよう。
一、アダムにおいて我らは
二、アダムの子らの兄弟二人において、旧きアダムの根から、一は自然によりて、一は恩寵によりて、生長した肉と霊、自然的と心霊的なる二種の
三、ノアにおいては、バプテスマの奥義的なる水を通して受ける新生の型を見る。
四、アブラハムにおいては、カナンの国を目指しながらも行くところを知らず
五、イサクにおいては、多くの喜びと僅かの衝突をもって水の井戸の傍らに住まう子たる生涯を見る。
六、ヤコブにおいては、携え帰りて天の処にてその喜びを分かつために、新婦と多くの物質を得んために、遠き国へ
七、最後の最も完全なるヨセフのそれにおいて、我らは初めには統轄を夢み、終わりにはすべてのものを服せしめるに至る受苦の生涯を見る。
創世記の価値をあまりに多く評価しすぎることは殆ど不可能である。これはただ聖書全体の苗床であるばかりでなく、新約聖書の多くは創世記なしには到底理解され得ぬほど、全体と密接な関係がある。パウロの説いた人に関する教理は、創世記の初めの方に録されてある人類堕落の事実に基づいている。信仰によりて義とせられるという彼の教理も、創世記に記されてあるアブラハムの物語、その生涯、その信仰に基づいている。サタンについて彼が言及するところの多くは、創世記の記者によりて宣言されている、サタンの人類を零落せしめたことに関係がある。また、パウロがユダヤ人とその運命に関して伝えている最も豊富な教え、メルキゼデクの範のごときキリストの天的祭司職に関する教え、またこれに関係したるすべての驚くべき真理、霊的教訓は、創世記なくしてはすべて意義をなさず、また全く理解し難きことである。
更に進んで、我らはこの書において、一神論の最も明白確実にして誤るべからざる宣言を有している。しかしてこれは進化論者に対していかなる点においても何らの論拠をも与えておらぬ。進化論者は、神に対する観念の発達の順序は、まず多神教より起こって万有神教に至り、更に進んで一神教に進化し
最後に、驚くべきことには、もとよりこの書はその目的において科学的なるべく言い表しておらぬけれども、その中に、科学の知られたる事実と衝突する何らの記述もなく、何らかかることに言及しておらぬということである。天地開闢や洪水に関する聖書以外の物語が、不合理な迷信的なる怪しむべきこと、不調和なることをもって満ちているにかかわらず、創世記の記事には絶えてかかる嫌いがない。されば、偏見なき心には、この書は聖霊の
梗概は以下に挿入したる表を見よ。
○創世記は次に掲げる一つの緒言と十の系図の書とに明白に区分されている。
【緒言】
── 一章一節 〜 二章三節 ──
緒言には地球の創造されたる次第を叙述する。すなわち物質、生命、霊の創造、土地その他のものより進んで人類に至るまで、諸物の造られたること、すなわち形成されたることを
【第一 天地の造られし由来】
── 二章四節 〜 四章二十六節 ──
この段においては、創造されたる世界の事物の取り扱われるは、ここに叙述せんとする問題を引き出すために必要なる範囲に限られる。生命、すなわち植物の生命、獣類の生命に触れている。されども主たる題目は、罪悪の入り
【第二 アダムの伝記】
── 五章一節 〜 六章八節 ──
この段には敬神的苗裔の系譜、年齢、およびその名を録し、終わりに敬神的苗裔と悪しき苗裔との混合せるにより、一切のものの破壊と新しき起原を余儀なくされたことをもって結ぶ。
【第三 ノアの伝記】
── 六章九節 〜 九章二十八節 ──
かくのごとく混合したる人類の、洪水によりて滅ぼされること。ノアとその家族の救われること。
一、ノア方舟を造り義を宣伝すること(六章)
二、ノアとその家族、方舟にあること(七章)
三、ノアとその家族、方舟を出ること(八章)
四、洪水の後のこと(九章)
【第四 ノアの子セム、ハム、ヤペテの伝記】
── 十章一節 〜 十一章九節 ──
アーリア族、トラン族、セム族など、諸国民の新しき起原の歴史。ただしアーリア族とトラン族の人々の名は系譜的よりもむしろ人類学的に列挙され、かつこれらの人民の歴史は続いて録されず。ただ彼らのうちの或る者は後にセム族中のユダヤ系の歴史に関係して現れるのみ。
【第五 セムの伝記】
── 十一章十節 〜 二十六節 ──
セム族のユダヤ系のみが系譜的に録されている。
【第六 テラの伝記】
── 十一章二十七節 〜 二十五章十一節 ──
この段はユダヤ民族の先祖アブラハムの歴史である。
一、彼の召されしこと(十二章)
二、彼の撰択(十三章)
三、彼の戦い(十四章)
四、彼の契約の祝福(十五章)
五、彼の信仰の失敗(一)(十六章)
六、彼の更名と割礼(十七章)
七、彼のソドムのための禱告(十八章)
八、彼の祈禱の答え(十九章)
九、彼の信仰の失敗(二)(二十章)
十、彼の信仰の報償(二十一章)
十一、彼の信仰の試錬(二十二章)
十二、彼の信仰の告白(二十三章)
十三、彼の信仰(二十四章)
十四、彼の死(二十五章)
【第七 イシマエルの伝記】
── 二十五章十二節 〜 十八節 ──
マホメット教民の起原。彼らの歴史もユダヤ民族の歴史の本幹的発達に関係せざるがゆえに、また続いて録されておらぬ。
【第八 イサクの伝記】
── 二十五章十九節 〜 三十五章二十九節 ──
イサクとその子ヤコブの歴史。主としてヤコブの歴史が録される。
一、イサクの子らの生まれること(二十五章)
二、彼のゲラルに旅すること(二十六章)
三、彼がその子らを祝すること(二十七章)
四、ヤコブその家を去ること(二十八章)
五、彼その妻を得るためにラバンに事えること(二十九章)
六、彼に子らの生まれること(三十章)
七、彼その故郷に帰ること(三十一章)
八、彼天使と格闘すること(三十二章)
九、彼その兄と会うこと(三十三章)
十、彼カナンにて困難に遭うこと(三十四章)
十一、彼その家を潔めること、並びにその父を葬るべく家に帰ること(三十五章)
【第九 エサウの伝記】
── 三十六章一節 〜 四十三節 ──
エサウはセム族なれどもトラン族の者と結婚したるためにその子孫は混合したる者となりたれば、その名は挙げられおれどもユダヤ民族の発達に関せざるがゆえに、続いて録されておらぬ。
【第十 ヤコブの伝記】
── 三十七章二節 〜 五十章 ──
この段は主としてヨセフのことに関す。何故にルベン或いはユダよりもむしろヨセフのことの録されるかについては歴代誌上五章一〜二を見、また創世記三十九章七〜九、同三十五章二十二および同三十八章を比較して見よ。
一、ヨセフの夢、および彼の売られること(三十七章)
二、ユダその家の家督の権を失うこと(三十八章)
三、ヨセフ試練の火中にあること(三十九章)
四、彼の獄中にあること(四十章)
五、彼エジプトの宰相となること(四十一章)
六、彼とその兄弟たち(四十二章)
七、彼とベニヤミン(四十三章)
八、彼その兄弟たちを留めること(四十四章)
九、彼の復讐(四十五章)
十、ヤコブ、エジプトに移ること(四十六章)
十一、ヤコブのエジプト滞在および最後の願い(四十七章)
十二、ヤコブ、ヨセフの子らを祝すること、ヨセフ、家督の権を得ること(四十八章)
十三、ヤコブその子らを祝すること(四十九章)
十四、ヤコブの死、ヨセフの死、および最後の預言的命令(五十章)
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