八章一節と四節において私共はこれと同じことを見ました。その時よりこの節に至るまでの間は、ただ格別の伝道の話、或いは格別の悔改の話のみが記されてありまして、八章四節に続きます。ピニケ、クプロ、アンテオケとだんだん北の方に広がりました。しかしただユダヤ人ばかりに道を語りました。またあまり成功がありませんでしたでしょう。
この人々は異邦人にも神の恩恵の福音を聞かせました。ペテロはただ天より幻を見たときだけ異邦人に福音を聞かせましたが、この普通の平信徒は溢れるほどの恩恵に感じて、また神のご慈愛に感じて、幻がなくともギリシャ人に福音を語りました。そうですから主の祝福が降りました。すなわち、
主はさっそくこれが聖旨に適ったことであると示したまいました。そうですから異邦人に福音を宣べ伝えることは第一に誰が致しましたかならば、普通の信者でした。格別にこのことを任ぜられた教会の役員ではありませなんだ。普通の信者が神の恩恵に満たされて、神の聖旨を早く弁えて、異邦人にも福音を宣べ伝えたのであります。
『主のみ手が彼らと共にあったため』。そうですからマルコ十六章二十節の通りでありました。『主も彼らと共に働き』。いま天に昇りたまいました主はその御能力と御臨在を信仰することのできる信者と偕に働きたまいます。イザヤ書五十九章一節の『主の手』、これは『主のみ手』と同じ言葉であります。『主の手が短くて、救い得ないのではない』。今でも神はこのように御手を伸ばして私共と偕に働いて、多くの人の心を砕きたもうことができます。
バルナバ、すなわち慰めの子を遣わしました。これはエルサレムの教会がこの働きの同情を表したからであったに違いありません。バルナバはクプロの人でありましたから（四・三十六）、そこに行ったクプロの信者に格別に同情を表すことができました。またその信者たちはたぶんバルナバを知っておりましたから、バルナバはそこに行くのに適当な人でありました。
バルナバはこの時に格別にそこの信者たちのために聖霊のバプテスマを祈るために参りませなんだ。この働きは初めから神ご自身が始めたまいましたから、人間の助けを要しません。けれどもバルナバは信者を慰め、また彼らと交わるためにアンテオケに参りました。
この働きは明らかに神ご自身のお働きであることを見て喜びました。ルカ十五章六節のような心をもって主と共に歓びました。『わたしと一緒に喜んでください。いなくなった羊を見つけましたから』。この人は主の霊を得ましたから、善き牧者の心を心と致しましたから、失われた羊の帰ったのを見て喜びました。そうして格別にこの救われた人々に『主に対する信仰を揺るがない心で持ちつづけるようにと、みんなの者を励ました』。いつでも主に近く生涯を暮らすように勧めました。またもはや神の救いを受け入れましたから、主に伴って行くように決心せよと勧めました。これは実に適当な勧めでありました。このバルナバは何故そんなに喜び、またそんなに勧めましたかならば、
『彼は聖霊と信仰に満ちた立派な人であったからである』。すなわちこの人は品性の善なる者でありました。またこの人の経験は『聖霊に満ちた人』であり、働き人としてどういう者であったかと申しますと『信仰に満ちた者』でありました。バルナバはそのような人でしたから、この働きを見て喜び、また信者を慰めることができました。伝道のために一番大切なことは、聖霊の賜物を持っているということや、また権威或いは能力を持っているということよりも、その人はどういう人であるかということ、すなわち品性であります。これが何よりも最も大切であります。
またバルナバはそのような人でありましたから、必ずその働きのために多くの人々が信じたに相違ありません。『こうして主に加わる人々が、大ぜいになった』とあります。八章十九節にシモンという人は聖霊を求めずして伝道の力を求めましたが、そのために失敗しました。バルナバはその反対にその心を潔くして主に従いましたから、そのために多くの人々が主に加わりました。
けれどもバルナバは一緒に働く者を求めました。これは神の聖旨に適うことであります。神は格別に二人の者が心を合わせて福音を宣べ伝えることを願いたまいます。私共も神にそういう友を求めるはずです。神が或いは他の伝道者を与え、或いは信者の中からそういう友を与えたまいますならば、伝道のためによほど幸いであります。昔から二人一緒に働くことは神の聖旨でした。出エジプト記三十一章二節に神はベザレルを召したまいましたが、六節を見ますとアホリアブを与えて彼と共ならしめたまいました。これは神がベザレルに与えたもうた善き賜物でありました。一緒に働く友達、一つ心をもって働くことのできる友達を与えられることは大いなる恵みの一つであります。今バルナバはそのような友を求めました。
アンテオケとタルソは六十里くらいの所でありましたが、バルナバはそこに行ってサウロを訪ねました。サウロは今までそこに八年間おりました。この間、格別成功がありませなんだが、その間に神は彼を備えたまいました。神はイザヤ書四十九章二節のように『とぎすました矢』を求めたまいまして八年間静かにサウロを備えたまいましたが、今この二人は一緒に働くようになりました。
『ともどもに教会で集まりをし』。そうですから信者を慰めましたでしょう。『大ぜいの人々を教えた』。そうですから罪人をも導きましたでしょう。そういう風でアンテオケの伝道はだんだん盛んになりました。この多くの民はたいがい異邦人でありましたから、たぶんアンテオケに初めて異邦人の教会ができました。そんな新しいことができましたから弟子等は新しい名をもらいました。『このアンテオケで初めて、弟子たちがクリスチャンと呼ばれるようになった』。聖霊は大切にそれを言いたまいます。この『呼ばれる』という原語は格別の言葉であります。神が批准して公然天下に宣言したもうという意味のある言葉でありまして、普通の言葉ではありません。この四つの引照に同じ字が用いてあります。マタイ二章十二節『み告げを受けたので』。ルカ二章二十六節『聖霊の示しを受けていた』。ヘブル八章五節の『御告げを受け』、また同じ十一章七節に『御告げを受け』。これらはみな同じ言葉であります。そうですからここで弟子等がクリスチャンと称えられましたのは神より称えられたものと思われます。これは聖なる名前であります。ヤコブ書二章七節をご覧なさい。『あなたがたに対して唱えられた尊い御名』、この善き名とはクリスチャンという名のことです。主イエス・キリストの名をもってきてクリスチャンと称えられたのであります。しかし反対者はその善き名を汚します。
またこの名は言葉としても珍しい名であります。その思想はヘブルの思想で、やはり油を注がれること、すなわちキリストと同じことであります。しかしその語はギリシャの語であります。またその語尾はラテン語の語尾であります。そうですからこの一語の中に普く世界の人の語を含んでおります。神は私共にこの貴い名を与えたまいました。
これはキリスト信者の預言者であります。預言者とはどういう者でありますかならば、神の力をもって神の言を宣べ伝える者であります。預言者は格別に未来のことを宣べ伝えることではありません。時としては未来のことをも示しますが、神の霊に感じて神の言を宣べ伝えることであります。この時数人の預言者がエルサレムよりアンテオケに参りました。その頃は信者が教会を励まし助けるためによく巡回いたしました。
そうですからアガポの言葉を信用しました。この信者等は、この人は聖霊の力をもって来るべき事を示したと信じました。そうしてそのために金を出しました。アガポは必ず聖霊の力をもって預言したに相違ありません。誰もそれを疑うことはできません。そうですからユダヤに住んでいる兄弟たちを救わんがために施済を送りました。これによりてその時の信者に一致和合の精神があったことがわかります。この人々は、生来から申しますならばエルサレムにおるユダヤ人を軽蔑したかも知れませんが、いま喜んで金を出して彼らを助けました。アンテオケにも必ず貧乏人があったに相違ありません。またそこの教会のためにもその地の伝道のためにも金が要りました。けれども福音の源となったエルサレムのために喜んで金を出しました。これは二章四十五節の心であります。『資産や持ち物を売っては、必要に応じてみんなの者に分け与えた』。
アンテオケの兄弟たちは、未だ見ない兄弟たちに対しても熱い愛をもっておりました。これは真正に神の愛であります。キリスト信者のもつべき愛であります。
バルナバはアンテオケの働きをみるためにエルサレムより遣わされましたが、いまアンテオケの教会の愛の果を持ってエルサレムに帰ります。バルナバが持って帰った寄附金は、エルサレムの信者の眼の前に神の働きの良い証拠でありました。バルナバがアンテオケの伝道について何も言いませんでも、その寄附金さえ見ますれば、神がそこに働きたもうたことがわかります。
神はそのようにだんだん聖国を広めたまいました。また格別に普通の信者をもって広く福音を宣べ伝えさせたまいました。神は今の時代の信者にもこんな熱心と愛とを与えることを願いたまいます。普通の信者がこんな熱心をもっておりますれば必ず日本にも速やかにリバイバルが起こり、日本からだんだんアジアの他の国々にも、アフリカにも福音が伝わるようになり、神の国が広められるようになります。
| 総目次 | 序文と目次 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
| 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |