第 二 十 三 回 自九章至十一章総合的再述 



 九章より十一章までは肝要なるところであるから、今回は言い方を変えてその大略を再述することとする。
 パウロは本書によって信仰によって義とせられることを説いたが、それについてここの二つの疑問が起こってくる。すなわち第一は、信仰によって救われることについてはユダヤ人と異邦人の区別がないが、さらばユダヤ人の特権は無益なものとなるのではないかということである。第二に、ユダヤ人全体が(きわめて少数の例外はあるが)キリストを信ぜず、信仰によって救われる道を受けないのであるから、ユダヤ人は捨てられていると言わなければならぬ。さらば神の約束が反故になるのではないかというのである。なぜならば神は太古よりユダヤ人を選び、これと契約を結びたもうたのであるから、その民が恵みを受けずにいるのは、とりもなおさず神の約束が反故になるわけではないのかという疑問である。そこで反対家は、神がユダヤ人を捨てたならば神は偽る者である、ゆえに信ずることができぬと言うであろう。さればパウロは以上の二つの疑問に答えている。この九章より十一章まではその答えを記したものである。
 すなわちパウロはこの三箇章において、信仰によって救われる道を信ぜざるためにユダヤ人が捨てられたことについて、神のために弁明している。九章においては神の絶対権よりこれを弁明している。これは注意すべき弁明である。十章においては、ユダヤ人の捨てられたるは彼ら自身の不信仰のためであると述べて神を弁明している。そして十一章においては、神の智慧ある計画よりこれを弁明している。
 この三章の内容を繰り返して言えば、九章一節より五節までが総論で、ユダヤ人に対するパウロの心状がここに表れている。六節より十三節が、信仰によって救われることは神の昔の約束と矛盾せざること。十四節より十八節までは、信ずる者のみ救われることは昔よりの聖書に適うものであること。十九節より二十九節までは、信仰によって救われることは神の絶対的主権に適うことである。しかし以上のことだけでも神は不公平のように見ゆる。さればパウロはさらに他の方面より神を弁明している。それは九章の終わりより十章にかけての問題で、九章三十節より十章四節までにおいて、信仰によって救われる道はユダヤ人に拒まれたことを記している。それゆえにユダヤ人の捨てられた真の理由は彼ら自身の不信仰によってである。これ彼らの捨てられた基礎的事実である。五節より十一節までは、信仰によって義としたもうことは神の方法にて、旧約にも預言されてあることであることを示している。ゆえにユダヤ人たる者、これを拒むべき筈ではないのである。十二節より二十一節までには、信仰によって義とせられることはすべての人に備えられていること、すなわちこの救いはユダヤ人にも異邦人にもかかわる一般的の救いであることを示している。十一章にも三つの点について記し、一節より十節までは、ユダヤ人の或る部分は救われていること、十一節より二十四節までは、異邦人にも救いの機ができたこと、二十五節より三十二節までは、ついにユダヤ人全体が恢復することを示している。三十三節以下は結論である。
 再三繰り返すようになるが、今これを分解表にして示すと以下のごとくになる。

九章   (一〜五)──総論──パウロのユダヤ人に対する愛
    1(六〜十三)信仰の救いとそのためユダヤ人の拒絶せられることは
                      神の約束に矛盾せざること
    2(十四〜十八)信仰の救いと神の選択の秘密は聖書に適応すること
    3(十九〜二十九)信仰の救いと神の選択の秘密は
                      神の絶対的主権によれるものなること
十章  1(九・三十〜十・四)信仰の救いを拒絶せしことが
                      ユダヤ人の捨てられたる原因なること
    2(五〜十一)信仰の救いは神の企図と自由の賜物にて
                      旧約聖書にも預言しあること
    3(十二〜二十一)信仰の救いの範囲は限られずして一般的なること
十一章 1(一〜十)信仰の救いと神の選択の企図により
                      ユダヤ人中にも或る者は救われていること
    2(十一〜二十四)信仰の救いと神の選択の企図により
                      異邦人にも救いの機会の提供せられしこと
    3(二十五〜三十二)最後の結論としてユダヤ人全体が救われること
     (三十三〜三十六)──結論──神の智と富に対する頌詞



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