第 九 章  アロンと其民等の献物



一〜四節

 『ヱホバ今日けふ汝等なんぢらあらはれたまふべければなり』(このことばこの章の眼目です。八章おいてアロンとその子は祭司の任職を得ました。又その時に信仰をもっその任職と共にそれにかなふ力を得ました。けれどもそこには神の榮光があらはれておりません。アロンはその表面うはべしるしよりて、その任職とそれにかなふ力を得たりと信ずる事が出來ました。この九章おいてアロンとその子がはたらきを始めます。これは始めて祭司として神の前に犧牲いけにへを献げる時でした。又そのはたらきを始める時に、ヱホバの榮光があらはれました。神は度々たびたび如斯このやう私共わたくしどもを祝福し給ひます。私共は神の前に出て、身もたまも献げて、信仰をもっ膏灌あぶらそゝぎを得ます。けれども感情が燃えぬかも知れません。たゞ信仰をもっります。けれどもそれから神の命令に從うて働きに出ます時に、神の榮光があらはれます。又その信仰は經驗となります。神をあらはしますから、神はそのことばに從うて榮光をあらはし給ひます。最早そのめぐみを得たと信ずる兄弟が、其儘そのまゝにしてあかしをしませんならば、あるひその經驗を得ませんかも知れません。大膽だいたんに進んであかしする時に、ヱホバの榮光があらはれます。

 前に申しましたやうに、この人々は一週間しづかに天幕のうちに神の前に俟望まちのぞみました。人間を離れて神の前に飮食いんしょくしました。けれどもやうやく八日目に、人間の前に出て神のために働く時が參りました。私共は如斯このやうめぐみを得たる時に、しばらく神の前につ方がよろしいです。けれどもれから大膽だいたんはたらきに出ねばなりません。その時にこの祭司のつとめは何ですかならば、犧牲いけにへを献げる事でした。ことばを換へていひますれば、イスラエルびと眼前めのまへに、流されたる血を示す事でした。私共のつとめは何ですかならば、人間に十字架を示す事です。ペテロがペンテコステの日において、聖靈を得たる時に、あつまれる人々に大膽だいたんに十字架をあかししました。これは三、四節と同じことです。イスラエルびと眼前めのまへに、流されたる血を示す事です。又その血の力、献身の力、又しゅしぬる事のうちに自分もしぬるものなる事を示さねばなりません。如斯このやうに十字架を示しまするならば、神の榮光があらはれます。

 ゼカリヤ十二・十をご覧なさい。『彼等はそのさしたりし我をあふ』、すなはち十字架につけられし主を見る事です。さうですから罪のために歎きかなしみます。又その時に主の榮光があらはれます。おなじく十三・一をご覧なさい。すなはち神の聖潔きよめの力、神のきよき榮光があらはれます。これはレビ九章と同じ事です。血によりて神の榮光があらはれます。さうですからこのイスラエルびとは皆神の前に立つ事を得ました(レビ九・五)。ヱホバをあふぎてこの献物さゝげものを献げました。しとぎゃう十・三十三を御覽なさい。如斯このやうに神の聖前みまへにありましたから、神の榮光があらはれて參りました。皆神をあふぎて、神のしもべを見ませずして、神御自身を俟望まちのぞんであつまりました。さうですから神はめぐみくだして、その榮光をあらはし給ひました。

 主の榮光について次の引照を見たう御座います。

 第一  エジプト十六・七、十
 この章を讀みまするならば、その時にヱホバはマナを與へ給ひました。天のかてを與へ給ひました。私共は主の榮光を見まするならば、そのために靈のかてを得ます。これは第一の結果です。

 第二  エジプト二十四・十、十六
 その時にヱホバの榮光があらはれて、モーセは神を見る事を得ました。又神の聖旨みむねを悟る事を得ました。神の榮光があらはれまするならば、私共は同じ事を見ます。

 第三  エジプト四十・三十五
 この章を見まするならば、その時にモーセは初めてこの天幕を建てました。又天幕を神に聖別しました。その時に神の榮光がくだりました。何のためですかならば、これを自分のものとするためです。私共は神の榮光があらはれまする時に同じ事を見ます。すなはその人を自分のものとするためです。又以後そのゝちその人の心のうちに住むためです。

 第四  レビ九・六
 すでに見ましたやうに、祝福するために、神は榮光をあらはし給ひます。

 第五  みんすう二十・六
 これはなにの時ですかならば、水を與へ給ふ時でした。神の榮光があらはれまするならば、其爲そのため生命いのちの水を得ます。

 今たゞ槪略あらましその引照を引きました。けれどもみんすう十四・二十二を御覽なさい。神の榮光を見ながら神に從ひません事はじつに重い罪です。さうですから、そういう人々に、神の榮光があらはれる事は、かへって彼等をほろぼためです。神は如斯このやうに不信仰の人間を罰するために、その榮光をあらはし給ひます。おなじく十六・十九〜廿一を御覽なさい。この人々は驕傲たかぶりの罪に陷りました。それゆゑに神は彼等をほろぼさんがために、その榮光をあらはし給ひました。おなじく十六・四十二、四十四、四十五を御覽なさい。その時にも罪人つみびとほろぼために、神の榮光があらはれました。をはりの日に主の榮光があらはれまする時に、同じ結果があります。其爲そのために神の民は祝福せられます。けれども敵する者はほろぼされます。

八  節

 アロンは第一はじめに自分のため献物さゝげものを献げました。これによりてアロンは本當の祭司長さいしのをさでなかった事を示します。本當の祭司長さいしのをさは、自分のため犧牲いけにへを献げるわけはありません。自分の功績いさをしゆゑに、ほかの人のために働く事が出來ます。ヘブル七・二十六、二十七を御覽なさい。アロンは本當の祭司長さいしのをさにあらざる事がわかりました。たゞ主の雛形のみです。アロンは種々いろいろ過失あやまち、また不足がありましたから、本當の祭司長さいしのをさとなる事は出來ません。さうですから第一はじめ自己おのれのために犧牲いけにへを献げねばなりません。オーさいはひに今私共は全き祭司長さいしのをさをもっております。彼は私共を神に導き給ひます。また彼を通して私共は神のめぐみを受くる事が出來ます。私共はアロンの如く、度々たびたび人間のために働きます。主と主の十字架を示します。何卒どうぞその時はづ自分のため犧牲いけにへを献げなさい。すなはち先に自分は亡ぶべき罪人つみびとであるが、主の血によりて救はれたるものなる事を深く感じなさい。私共は說敎する時に、自分は罪人つみびとにして、たゞ聖血ちしほために救はれたるものなる事を深く感じたう御座ります。如斯このやうに人間に聖血ちしほを示す前に、自己おのれため犧牲いけにへを献げます。また人間にすくひ宣傳のべつたふる前に、自分の心中こゝろのうちに自分のためにそれを深く感じたう御座ります。度々たびたびかういう事は、ほかの信者にふやうに見えますから、それを說敎しやうと思ひます。けれどもういふ思想かんがへもって說敎しまするならば、たゞ高慢たかぶりに陷ります。これは自分が學ぶべき必要があると感じて、自分の心中こゝろのうちそのめぐみあぢはうて、しかのちほかの人々にあかしします。これは正しき順序です。又ういう說敎は、神の前にかうばしきにほひ犧牲いけにへです。私共は神より敎へられて、そのめぐみあかしする心をもって、說敎したう御座ります。

 八節に『自己おのれのための罪祭ざいさい』、十五節に『たみのためにする罪祭ざいさい』とあります。これは注意すべきことばであります。

 又そのために神の榮光があらはれました。これはたゞ雛形です。今主は私共のために、天においそのまったあがなひを示し給ひます。其爲そのために私共は神の榮光を見ます。神のめぐみあづかる事が出來ます。何のために神の榮光を見る事が出來ますか。自分おのれの熱心のためでせうか。あるひは献身のためでせうか。かたき信仰のためでせうか。無論さうではありません。たゞ主のあがなひゆゑめぐみを得ます。その時にこのイスラエルびと何故なにゆゑに榮光を見ましたか。たゞあがなひの血が流されたからです。彼等のめに全き犧牲いけにへが献げられました。自分じぶんの信仰、自分の献身、自分の熱心のためではありません。必ずさういふものがければなりません。けれども本當に血のためめぐみを得ました。オー私共は幾分いくぶんか榮光を見ましたならば、幾分いくぶんか聖靈を得ましたならば、それは天の所において、主が私共の祭司長さいしのをさとして聖血ちしほを示し給ふゆゑであります。

 ヘブル九・十一、十二二十三を御覽なさい。主はおのが血をもって神の前にいで給ひました。今私共は其爲そのためめぐみを得ます。主はおのが血を神の前に示し給ひますから、神は私共に榮光をあらはし給ふ事が出來ます。天の所においあがなひしるしあらはれましたから地の上に神にめぐみが全くあらはれます。アロンは如斯このやうに神に對して犧牲けにへを献げました。夫故それゆゑ二十二節に人間に對して、めぐみことばをいひ給ふ事が出來ます。『手を擧げ』てたみを祝し、先に血が流されましたから、今このけがれたる人間に對してめぐみことばをいふ事が出來ます。又其爲そのために人々は本當に祝福を得ました。この二つの方法を深く考へたう御座ります。第一は主の聖血ちしほです。第二は主のめぐみことばです。主の血はすべてめぐみの源です。けれども主のことばを受けませんならば、そのめぐみ受入うけいるゝことは出來ません。主の聖血ちしほために私共はめぐみを得ます。又主の聖言みことばためそのめぐみを經驗することが出來ます。

 如斯このやうに主の聖血ちしほために私共に神の約束を與へ給ひます。オー兄弟姉妹よ、主の聖血ちしほ依賴よりたのみまするならば、深く神の約束をお聞きなさい。主の聖血ちしほために、すべての約束は兄姉あなたものです。約束のめぐみは血に依賴よりたのむ者のためです。

 アロンは手を擧げてたみを祝しました。『手を擧げ』、これは嚴肅なることばしるしです。これは神のちかひです。民等たみらはアロンが手を擧ぐるを見て、これは嚴肅なる言葉である事がわかりました。エゼキエル二十章を見まするならば、ヱホバが手を擧げて約束する事を見ます。これは誓うて嚴肅に約束を與ふる意味です。オー神は如斯このやうに手を擧げて私共にこの祝福を與へ給ひます。その祝福のことばみんすう六・廿四〜廿六にしるしてあります。これは神のめぐみの大意です。『守り』『惠み』『平安へいあんたまへ』。これは祝福の眼目です。父なる神は守り給ひます。子なる神は私共に父のかほあらはし給ひます。聖靈なる神は平安を與へ給ひます。父と子とみたまの祝福を受くる事が出來ます。

二十三、二十四節

 如斯このやう聖血ちしほを見、また聖言みことばを聞くために、神の榮光を見る事が出來ます。すなはち神の愛のみかほを見る事が出來ます。神の聖旨みこゝろを知る事が出來ます。又火ヱホバの前よりでゝ燔祭はんさい燒盡やきつくしました。神のものとならしめ給ひました。聖靈の火をくだし給うて、各自めいめいその火を受けました。オーこの章においてその天につける火を受くる順序を見る事が出來ます。神は私共各自めいめいその火を與へ給ひたう御座ります。聖靈のほのほを私共各自めいめいひたひもやし給ひたう御座ります。私共各自めいめいそのれいの冠をかうむらしめ給ひたう御座ります。オー何卒どうぞ主の全きあがなひを見、主のめぐみことばを聞き、その見る事にり、その聞く事によりて、神の榮光を受入うけいれなさい。オーよりて耳によりて、神の榮光がわかり、全く神のものとなり、その聖なる火を受けて、これから燃ゆる生涯をお送りなさい。

 再び二十三、四節を御覽なさい。神は如斯このやうその献物さゝげもの受入うけいれ給ひました。イザヤ六十・七を御覽なさい。如斯このやう献物さゝげもの受入うけいれ給ひまするならば、榮光その家をかゞやかし給ひます。私共の心中こゝろのうちに同じ事があります。神は燔祭はんさい受入うけいれ給ひまするならば必ず聖靈をもっその心をかゞやかし給ひます。『民これを見て聲をあげ俯伏ひれふしぬ』。ゼパニヤ三・十四を御覽なさい。『シオンのむすめ歡喜よろこびの聲をあげよ』。何故なぜならば十六、七節の如く、神は其中そのうちに宿り給ふからです。夫故それゆゑに聲を擧げて感謝する事が出來ます。イザヤ十二・六を御覽なさい。神が其中そのうちいまし給ふゆゑに、聲を擧げて感謝する事が出來ます。私共は肉につける力をもって感謝することがあるかも知れません。けれども神はれいつける力をもって感謝することを願ひ給ひます。默ってる事が出來ずして、神を崇めます。これは本當のきよき感謝です。神を宿しまするならば、如斯このやうに感謝する事が出來ます。しへん五・十一おなじく廿七・六を御覽なさい。何卒どうぞ神に如斯このやうかうばしきにほひさけびを献げなさい。『民聲をあげ俯伏ひれふしぬ』。これは本當の禮拜です。神の榮光を見て俯伏ひれふして拜する事は、本當の禮拜です。何卒どうぞ私共の集會あつまりにて、如斯このやうな禮拜を經驗したう御座ります。

 こゝに神の榮光があらはれました。これをエジプト十九章に比べたう御座ります。彼所あすこにも神の榮光があらはれました。その十六を御覽なさい。『えいにあるたみみなふるふ』。こゝに聲を擧げて感謝する事がありません。こゝに俯伏ひれふして拜する事がありません。おなじく二十・十八の如く、遠く立ちました。俯伏ひれふ精神こゝろおこらずして、かへっ恐懼おそれ精神こゝろおこりました。何故なにゆゑ如斯このやうな區別がありますか。エジプト十九章とレビ九章おいて、神は二度御自分をあらはし給ひました。レビ九章おいて、血が流されました。けれどもエジプト十九章において、少しも血が流されません。たゞたみ洗潔あらひきよめられたるだけでした。夫故それゆゑに神を見る事は、じつに恐ろしき事です。人間は血に依頼よりたのまずして、たゞ自己おのれ洗潔あらひきよめて、自分の力で悔改くいあらためたる有樣にて、神に面會する事は恐るべき事です。そのために愛にひかれて神の前に禮拜し精神こゝろがありません。そのためよろこびもって神に感謝する事はありません。かへって神の恐ろしき有樣を見て、遠く離れたう御座ります。けれどもレビ九章を見ますれば、血の力がわかります。神の榮光を見ましても、聖血ちしほの力にりて、すこしおそれがありません。かへっよろこびと愛とがおこります。聖血ちしほために憚らずして、神の前に立つ事を得ます。民等たみらこの血を見て神のめぐみわかりました。神は聖血ちしほよりて御自分の豐かなるめぐみ貯藏たくはへあらはし給ひました。夫故それゆゑ罪人つみびとそのめぐみに感じて、おそれを棄て平安やすきよろこび滿みたされました。ある人は聖血ちしほに感ぜずして、深く悔改くいあらためて自分をきよくしまするならば、神の前に立つ事が出來ると思ひます。眞心まごゝろもって惡を棄てまするならば、喜んで神に面會する事が出來ると思ひます。けれどもこれはおほいなる間違まちがひです。聖血ちしほがありませんならば、奈何いかに深く罪を悔改くいあらためましても、神に面會することは恐ろしき事です。けれども聖血ちしほために、平安やすきよろこびと愛をもって、神の前に立つ事を得ます。

 全體として九章を見まする時に、これは主のこの地上におけはたらきと再臨の雛形です。

 祭司長さいしのをさアロンがたみ眼前めのまへに血を見せましたやうに、全世界の人間の眼前めのまへに、神のまったあがなひあらはれました。廿二節を見ますれば、アロンはめぐみことばをいひました。ルカ廿四・五十を御覽なさい。同章四十四節から見ますれば、私共の祭司長さいしのをさめぐみことばを見ます。主は今に至るまで私共にこのめぐみの約束を話して給ひます。けれどもレビ九・廿三を見ますれば、『モーセとアロン集會の幕屋にいり』とあります。祭司長さいしのをさは集會の幕屋に入りて、しばらく隱れてりました。ルカ廿四・五十一丁度ちゃうどそれを指します。すなはち天の幕屋に入りて、しばらく隱れて給ひます。けれどもレビ九・廿三おいて、『いできたりて』、再び出て參りました。これは主の再臨を指します。『民を祝せり』。如斯このやうな有樣にて、再度ふたゝびあらはれ給ひます。しとぎゃう一・十一を御覽なさい。『天に昇るを見たるその如くまたきたらん』。主は手を擧げて彼等を祝し、祝する時に昇り給ひました。『その如くまたきたらん』。オーたみを祝してきたり給ひます。『いできたりてたみを祝せり』。又それからその榮光があらはれて參ります。『かくてヱホバの榮光總體すべてたみあらはれ』。主の再臨の時にその通りです。しへん七十二・十九もくし二十一・十を御覽なさい。『神のさかえもって』、これは再臨後の事です。主がきたり給ふ時に、神の榮光がこの世にあらはれて參ります。新しきエルサレムのうちに神の榮光があらはれます。私共はその時に本當によろこび献物さゝげものを献ぐる事が出來ます。その時に叫んで神の前に俯伏ひれふして神を拜したてまつります。



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