第十七 ア ナ ニ ア の 死
内 部 の 敵
四章に於て外からの敵の勢を見ます。又聖靈がさういふ敵に反對し給ふ事を見ます。五章に於ては内部に敵ある事、及び如何して聖靈が敎會を其敵より救出し給ふかを讀みます。敎會が潔くありますれば、外部から來る敵は決して敎會を亡しません。然れ共内部の敵は敎會を亡す事を得ます。
四章の終迄段々、聖靈が敎會の中に在し給ふ事を示し給ひました。其が明かに示されますなれば、信者の中に罪を赦して置く事が出來ません。明かに御自分が敎會を統治め給ふ事を示し給ひますから、信者は恐れて惡を去る筈です。使徒行傳五章に於て、敎會の潔めに就て學びます。
聖靈の燃立つ火
聖靈は燃立つ火であります。四章に於て其は愛と惠の火でありました。五章の始に於て其は審判の火であります。聖靈が敎會の中に宿り給ひますなれば、唯潔主で在す許りでなく、又審判主ともなり給ひます。約翰伝五章廿一、廿二節を見ますと、『そは父の死し者を甦らせて生しむるが如く子も己の意に從ひて人を生しむべし それ父は誰をも鞫ず 審判は凡て子に委たり』。此處で主イエスは生命を與へ、又審判を與ふる權威を有って居給ふ事を見ます。聖靈は恩惠と生命とを與へ給ひますが、其と同時に審判をも行ひ給ひます。此二の事は何時まで一緖であります。
敎會の中に宿り給ふ聖靈
使徒行傳に於て三度、明かに聖靈が敎會の中に宿り給ふ事を讀みます。三の確實な例があります。第一、五章九節。此處で聖靈は敎會の中に在し給ひまして、審判を行ひ給ひます。第二、十三章二節。聖靈は敎會の中に在し給ひまして、或信者を選びて、格別に命ぜられし傳道に遣はし給ひます。第三、十五章廿八節。聖靈は敎會の中に在し給ひましたから、ヱルサレムの議會の時、敎會を導きて神の聖旨に適ふやうに、眞理を悟らせ給ひます。今の敎會の有樣を見ますれば、一個人一個人として聖靈のバプテスマと、聖靈の能力を受入れる者がありますが、敎會全體として聖靈の能力を受入れません。私共は唯一個人一個人の爲め許りでなく、敎會全體の爲に、聖靈の能力と、聖靈の宿り給ふ事、及び聖靈が支配し給ふ事を求むる筈です。
敎會として聖靈を受入れますなれば、必ず聖靈が審判を行ひ給ふ時であります。使徒行傳に於て四度、聖靈の審判が記されてあります。第一、五章に於てアナニヤに死を與へ給ひました。第二、八章廿一節に、シモンに譴責を與へ給ひました。第三、十二章廿三節に、ヘロデに死を與へ給ひました。第四、十三章十節に、エルマスを盲とならしめ給ひました。私共は聖靈を頂戴しますれば、其やうに恐れて、惡より遠く離れなければなりません。希伯來書十二章廿八節廿九節に『是故に我儕震れざる國を得たれば恩に感じて虔み敬ひ神の意旨に合ふ所をもて之に事ふべし 夫われらの神は燬盡す火なり』とあります。或信者は唯神は愛に富み給ふ神であると受入れます。併し私共は其と同時に、神は燬盡す火であると信じなければなりません。
眞似の献身
『然るに』。是は恐ろしい言葉であります。今迄信者は勝を得、衣を潔く守りて、神の聖前に生涯を暮しました。丁度雅歌六章四節の通りでありました。『わが佳耦よ、なんぢは美はしきことテルザのごとく、華やかなることヱルサレムのごとく畏るべきこと旗をあげたる軍旅のごとし』。敎會は今迄此樣に美はしい、又此樣に華やかな敎會でありました。然うですから恐るべき兵卒のやうな敎會でありました。『然るに』今罪が這入りました。而して若し聖靈が守り給ひませなんだならば、敎會の其美はしさと恐るべき有樣を滅ぼすやうに至りました。
『然るに』。是は創世記三章一節のやうであります。神が美はしき、潔きエデンの花園を作り給ひました時に、蛇が靜かに其處に這入りました。又是は約書亞記七章一節のやうであります（日本譯に『時に』とあるは英譯にては『然るに』とあります）。其時迄イスラエル人は勝を得て、カナンの地に入りて、其地を占領する事を得ました。外部からの敵を何時でも亡ぼす事を得ました。然れ共今尚々恐ろしい敵が起って參りました。其は内部の敵であります。即ちアカンが神の屬を取りました。エリコの分捕物は皆神の屬でありましたが、アカンは幾分か其を取って自分の屬と致しました。神の物を盜みました（馬拉基書三章八節を御覽なさい）。今此アナニアの罪も是と同じ事であります。其持物を神に献げる眞似をして、幾分を自分の爲に取りましたから、神の物を盜んだ事であります。アナニアは其持物を皆賣って神に献げませんでもよいのです。四節を御覽なさい。『地所いまだ售ざる時は爾の有ならずや 已に售たりとも亦なんぢの權に屬るならずや』。然うですから、忠實なる献身の心を以て其を續いて有って居って差支なかったのであります。然れ共其を神に献げる眞似をしまして、神に虛言を吐き、恐ろしい罪を犯しました。今でも度々聖別會の時に、かういふ罪があります。身も魂も全く献げると申しましても、幾分か自分の屬として未だ其を有って居ります。是は献身の眞似をしたのです。
是は又ナダブとアビウの罪と同じ罪であります。利未記十章一節二節を御覽なさい。『茲にアロンの子等なるナダブとアビウともにその火盤をとりて火をこれにいれ香をその上に盛て異火をヱホバの前に獻げたり 是はヱホバの命じたまひし者にあらざりしかば 火ヱホバより出て彼等を燬ほろぼせり すなはち彼等はヱホバの前に死うせぬ』。此二人はヱホバが在す事を恐れずして、ヱホバの聖前に自分が造った火を献げました。丁度其樣にアナニアは、聖靈の恐ろしい聖潔を感ぜずして、神の聖前に自分の心に從って、肉に屬ける献身を致しました。神の潔き火に由らずして、自分の心の儘に從って犧牲を致しました。是は異火です。
サタンの眞似
是はサタンの働であります。四章の卅六節卅七節を見ますと、聖靈に感じたる献身を見ます。是は眞の献身であります。併し眞の物がありますと、サタンは何時でも其眞似を致します。サタンは又私共の心の中に、熱心な信者を眞似したい心を起して、僞善とならしめます。ヨセフが其持物を献げましたから（四・卅六、卅七）、アナニアは其を眞似しました。信者の目の前に、自分は熱心家であると表はしたう厶いました。アナニアは道德に逆ふ罪を犯しませなんだ。却て敎會を助け、貧乏人に金を施し、博愛の心を示しました。其やうに多の金を寄附しましたから、是は聖靈の働ではないでせうか。否是はサタンの働でありました。三節にペテロは辨へる處の目を有ってゐましたから、此献身を辨へる事を得ました。此多くの寄附金は聖靈の御働でなくて、サタンの働によって行った事です。斯んな罪の爲に死ぬる事は正しい報であります。例へ今俄かに其報を受ける事がありませんでも、其樣な罪は矢張神の前に死を受くべき罪であります。以西結書卅九章七節『我わが聖き名をわが民イスラエルの中に知しめ重ねてわが聖き名を汚さしめじ 國々の民すなはち我がヱホバにしてイスラエルにありて聖者なることを知るにいたらん』。神は私共にも其を悟らせ給ひたう厶います。
聖靈の審判の美しき結果
聖靈は斯樣に敎會を守り、敎會を潔め給ひます。其爲に直ぐに美はしい七の結果が出ます。第一は大なる恐がありました（十一節『全會の者とこれを聞る者ども皆大に懼る』）。第二、神の著るしい御力が表はれました（十二節『多の休徵と奇なる跡は使徒等の手に由て民の間に行はれたり』）。第三、一致和合がありました（十二節の終『又かれら皆心を合せてソロモンの廊に在』）。第四、二心を以て道を求むる者は退き、斯ういふ潔き敎會に入る事を恐れました（十三節『餘の者は敢て之に近づかざりき』）。第五、主イエスの御名が其によりて崇められました（十三節の終の『尊み』）。第六、多の者が救はれました（十四節『男女とも信ずる者ますます多く主に屬ぬ』）。第七、著しい御力が表はれました（十五、十六節）、即ちヱルサレムの周圍の『諸邑より病る者および惡鬼に難されたる者を携てヱルサレムに來り』ました。其によりて傳道の能力を感じます。而して是等の者が皆癒されました。其癒されました者が多分主イエスを信じ、其信仰を以て自分の村に歸りまして、主の爲に生涯を送りましたでせう。
聖靈の審判を求めよ
然うですから聖靈が其恐ろしい審判の御力を示し給ひますれば、是は却て幸であります。又是は傳道の爲によい事であります。私共は度々心の中に聖靈の能力と聖靈の喜悅を求めますが、どうぞ其と同時に自分の心の中に聖靈の審判をも求めたう厶います。度々聖靈のリバイバルを求めますが、どうぞ其と同時に、敎會の中に聖靈の恐ろしい審判の表はれるやうに祈りたう厶います。私共は自分の事を考へますれば、又人の事を考へますれば、淺い心を以て唯聖靈によって幸福を求めます。然れ共私共が眞正に神に同情を表して、神と心を合せて祈りますれば、或時には熱心に審判を求めます。私共自身は祈るべき處を知りませんが、聖靈の感化を求めますれば、或時には聖靈が自ら言難き歎を以て、私共をして其を祈らしめ給ひます。どうぞ其やうに苦んで神の審判を求めて祈りたいものです。
| 総目次 | 序文と目次 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 |
| 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
| 31 | 32 | 33 | 34 | 35 | 36 | 37 | 38 | 39 | 40 |