ペンテコステのいはひ



舊約に於ける三大節さんだいせつ

 猶太人ユダヤびと每年まいねんみつおほいなる節筵いはひを守りました。その節筵いはひ私共わたくしどもために雛形となりますから、それを知る事は心靈上大切な事であります。出エジプト記しゅつエジプトき廿三章十五、十六節に、そのみつ節筵いはひが記してあります。『なんぢ無酵たねいれぬパンの節禮いはひをまもるべし すなはちわがなんぢめいぜしごとくアビブの月のさだめの時において七日なぬかあひだたねいれぬパンをくらふべし はその月になんぢエジプトよりいでたればなり…… また穡時かりいれどき節筵いはひを守るべし これすなはちなんぢ勞苦ほねをり田野たはたまける者のはじめを祝ふなり 又收藏とりいれ節筵いはひを守るべし これすなはちなんぢ勞苦ほねをりによりてなれる者を年のをはり田野はたけより收藏とりいるる者なり』。これ每年まいねん三大節さんだいせつでありました。その意味は、無酵節たねいれぬいはひ埃及エジプトより救はれし事の感謝會でありました。私共わたくしどもその通り、何時迄いつまでも罪より救はれた事を感謝して喜ぶはずです。第二の收穫かりいれいはひは、每年まいねん收穫かりいれの感謝會でありました。これは新約全書でペンテコステのいはひと申します。これ私共わたくしどもが聖靈を得た事を喜ぶ事の節筵いはひです。私共わたくしどもは斷えず聖靈を喜び、神が私共わたくしどもに聖靈の收穫かりいれを與へ給ひました事と、豐かなる滋養やしなひと力を與へ給ひました事を喜んで、常にそれを祝はなければなりません。第三の節筵いはひ收藏とりいれいはひでした。その年のすべてはたらきの終りし事のいはひでありました。これは世のをはりに、神の聖前みまへに榮光あるいはひを守る事を指します。私共わたくしども唯今たゞいま何時いつでもその榮光を待望まちのぞんで、神の聖前みまへこのいはひを守らねばなりません。

 此處こゝ基督キリスト信者の喜ぶべきみつの原因があります。第一は過去を考へて、神が全きすくひを與へ給ふた事を喜び、第二は現在の事を考へて、神はすべてのなくてならぬめぐみを與へ給ふ事を喜び、第三は未來において神が安息と榮光を與へ給ふ事を覺えて喜ぶのです。どうぞ心のうちで、何時いつでも斷えずこのみついはひを守りたうございます。

麥粉むぎこのパンのたとへ

 ペンテコステのいはひおいて、その年のはじめのパンを神に献げました。その年に出來た麥をもって造った最初のパンであります。(利未記廿三章十五節より十七節)。これたゞ麥を其儘そのまゝに献ぐる事ではありません。麥粉むぎこで造ったパンを献ぐる事でありました。使徒行傳二章おいて、初めて敎會が神に献げられました。今迄いまゝでは魂が一つ一つ其儘そのまゝに神に献げられましたが、今全き敎會となり、信者の集會あつまりが神に献げられる事を見ます。丁度ちゃうど昔の節筵いはひの通りであります。又その麥粉むぎこのパンはすべての人の滋養やしなひとなるはずです。又神はその麥粉むぎこのパンをもって、すべての惡魔の勢力を打毀うちこぼつ事が出來ます。士師記七章十三節、十四節『ギデオン其處そこに至りしにある人その伴侶ともに夢を語りてり すなはちいふ われ夢を見たりしが夢に大麥のパンひとつミデアンの陣中にまろびいりて天幕に至りこれをうちたふくつがへしたれば天幕たふふせ伴侶とも答へていふ これイスラエルの人ヨアシの子ギデオンのつるぎほかならず 神ミデアンとすべての陣營をこれが手にわたしたまふなりと』。使徒行傳二章から、神はこのちひさい敎會をもっすべての惡魔の陣營を倒し給ふ目的をって給ふ事を見ます。

節筵いはひの特質

 この節筵いはひの特質を尋ねますれば、申命記十六章一節に、逾越節すぎこしのいはひの事が記してあり、十節に七週なゝまはり節筵いはひを見ますが、これがペンテコステの節筵いはひであります。又十三節には結茅節かりほずまひのいはひを行ふべしとあります。これは第三のおほいなる節筵いはひであります。今十節を讀んでペンテコステの節筵いはひの特質を見ませう。

 第一は心から物を献げる事です。『なんぢの神ヱホバの前に七週なゝまはり節筵いはひを行なひなんぢの神ヱホバのなんぢ祝福めぐみたまふ所にしたがひなんぢの力に應じてその心に願ふ禮物そなへものを獻ぐべし』。今ペンテコステを受ける人は、こんな特質をもって神の聖前みまへで、その力に應じて心に願ふ祭物そなへものを献げます。此樣このやう祭物そなへものがなければ、正しくペンテコステのいはひを守る事が出來ません。

 第二は十一節にあるやうに、心をあはせる事です。『かくしてなんぢなんぢ男子むすこ女子むすめしもべしもめおよびなんぢもんの内にるレビびとならびになんぢらの中間うちにをる賓旅たびゞと孤子みなしご寡婦やもめみなともに』。さうですからみな一緖でした。その人の僕等しもべどもも、今迄いまゝで知らなかった旅人も、今迄いまゝで輕蔑してゐた異邦人も、憐れな孤兒みなしごも、皆同じやうに心をあはせて神の聖前みまへに出ます。これは今のペンテコステの特質であります。私共わたくしどもの心のうちにも、ほかの人を輕蔑したり、あるひほかの人をいかる感情がありますならば、たゞしくペンテコステの節筵いはひを守る事が出來ません。

 第三に喜悅よろこびこの節筵いはひの特質でした。十一節のをはりに『なんぢの神ヱホバの前にたのしむべし』。喜悅よろこびもって神の聖前みまへに出なければなりません。喜悅よろこびもって神よりめぐみを受けねばなりません。喜悅よろこびもっそのめぐみを得たと感謝せねばなりません。ある兄弟はペンテコステを受けるのに、おほいなる献物さゝげものを献げねばならないと思って、悲しみくるしんで神の聖前みまへに出ます。赤心まごゝろもって參りますが、心のうちくるしみがあります。その人はたゞしくペンテコステのいはひを守らないのです。このいはひの特質は喜悅よろこびであります。

 第四にこの節筵いはひの特質は神の御臨在であります。十一節『なんぢの神ヱホバのその名をおかんとて選びたまふところにて』。神は其處そこで御榮光をあらはし給ひます。其處そこ聖聲みこえを放ち給ひます。今のペンテコステにも、神は御自分をあらはし給ひます。私共わたくしどもたゞ神の眞理を求め、あるひたゞたゞしき經驗けを求めますならば、それはたゞしくこのいはひを守る事ではありません。ども神御自身を求め、して神の御臨在し給ふところに近づきますれば、まことのペンテコステを受けることができます。

 第五の特質は過去の事を記憶する事であります。これは十二節、『なんぢその昔エジプトに奴隷たりしことをおぼ是等これら法度のりを守り行ふべし』。ペンテコステを祝ひますれば、今迄いまゝでの罪を深くおぼえます。今迄いまゝでの罪のくびきを深く感じます。今迄いまゝでの鈍い心と、かたくなな心と、不信仰とを深くおぼえます。埃及エジプトに奴隷たりし事をよくおぼえ、又それって詩篇百三篇二節のやうに『そのすべての恩惠めぐみをわするゝことなく』、そのおほいなるすくひその大能だいのうかひなおぼえてすくひを感謝します。今迄いまゝでも深く自分の罪を感じました。どもペンテコステの日において、尚々なほなほ深くそれおぼえます。今迄いまゝでよく神のすくひを悟ってそれを喜びました。ども唯今たゞいま尚々なほなほ明白あきらかそれを得、それを感謝します。又今の立場を知って、これたゞ神の御惠おんめぐみによって其處そこに立つ事を得たと感じます。これことごとめぐみによれる事でした。ペンテコステを得ますれば、自分のたゞしきを全く捨てます。自分の力を全く捨てます。してたゞ神の純粹のめぐみのみを祝ひます。それによりて全く高慢たかぶりを殺して、眞正ほんたうの謙遜を得ます。これはペンテコステのいはひの第五の特質であります。

徹夜の祈禱いのり

 昔ペンテコステのいはひの前の日には、その時代の熱心なるユダヤびとは徹夜の祈禱いのりを致しました。又格別に神がシナイざんおいて、律法おきてを與へ給ひました事と、同時に聖書を與へ給ひました事を終夜よもすがら感謝しました。イスラエルびと埃及エジプトより救はれましてから五十日目に、シナイざんふもとに立って神の律法おきてを頂戴しました。ユダヤびと每年每年まいねんまいねんペンテコステの日にそれおぼえ、それを祝ひました。多分この弟子等でしたちその當時のユダヤびとならって、その前の晩終夜よもすがら徹夜の祈禱いのりを致しました。神の聖前みまへに喜んで、神がその聖言みことばを與へ、その聖聲みこゑいだし給ひました事を喜び、又シナイざんの時のやうに、神が御自分をあらはし、又その聖聲みこゑいだし給ふ事を願ったらうと思ひます。そんなふうでペンテコステの日が參りました。



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