使 徒 行 傳 講 義

ビー・エフ・バックストン講述
米   田      豊筆記



第一 此 書このふみ の 内 容



キリストのはたらきの續き

第 一 章

 此書このふみ使徒行傳しとぎゃうでんまをします。すなはち使徒たちおこなひといふ意味であります。れどもほかの點から申しますれば、これは天に昇り給ひましたしゅおこなひともふべきふみであります。

一節

 さうですから此書このふみで、しゅイエスのおこなひをしへの續きを知る事が出來ます。しゅイエスが續いて何を行ひ給ひましたか、又何を敎へ給ひましたかを知ります。路加傳ルカでん廿四章五十、五十一節を見ますればうあります。『イエス彼等を導きベタニヤに至り手をあげて彼等をしゅくす、しゅくする時彼等を離れ天にあげられたり』。これをはりでありましたか。路加傳ルカでんを見れば、昇天はしゅイエスのおこなひをしへをはりであると思はれるかも知れませんが、使徒行傳を見れば、それをはりでなく、かへっしゅおこなひをしへはじめでありました。新しきはじめでありました。キリストの昇天は日沒ではなく、日の出であります。これ幸福さいはひであります。しゅこの世を去り給ひました事は、悲しむべき事のやうに思はれますけれども、使徒行傳を見ますれば、それは悲しむべき事ではありません。かへって新しき日のはじめでありますから、喜ぶべき事でありました。しゅその時から新しく行ひ、又新しく敎へ給ひました事を見ます。さうですから使徒行傳は、天に昇り給ひましたしゅおこなひってもよろしうございます。

 それついて今一寸ちょっと引照を御覽なさい。二章卅三節を見ますれば、ペンテコステのめぐみが與へられましたのは、しゅはたらきでありました。四章十節を見ますれば、この跛者あしなへの癒されましたのは、しゅイエスのはたらきであると、ペテロが申してります。これしゅイエスの行ひ給ふた奇跡でありました。七章五十五節を見ますと、ステパノは眞正ほんたうに聖靈に滿みたされて永眠しました。ステパノがおほいなる迫害にひました時、しゅそれを天より眺め、又つひに彼を天に受入うけいれ給ひました事を見ます。しゅ其樣そんな忠實なしもべを歡迎するために待って給ひました。其爲そのためにステパノはペンテコステの永眠が出來ました。又九章六節にあるサウロの悔改くいあらためは、しゅイエスの御働おんはたらきでありました。しゅの奇跡でありました。なほ續いて使徒行傳を見ますれば、其樣そのやうこれしゅイエス御自身のはたらき、又御自身のをしへを記したものであることがわかります。

傳道の手帳ハンドブック

 又使徒行傳はどういうふみであるかと申しますれば、これは傳道の手帳ハンドブックであります。すなはち大切なる要點を敎へるちひさほんであります。私共わたくしどもしゅために働きたうございますならば、ほかの人を救いたうございますならば、又神の國を擴めたうございますならば、是非祈禱いのりもっ此書このふみを調べねばなりません。

 使徒行傳で、神は三十年間に何をし給ひましたかゞわかります。その三十年間の一時代に、神の國は能力ちからもって擴められました。福音は國々にはいり、又勝利かちを得ました。三十年間に、しゅイエスはみたまよって大勢の罪人つみびとを救ひ給ひました。それを考へまして、しゅ今日けふも同じ能力ちからもっ給ひますから、今日けふも同じ事を行ひ給ふ事が出來るといふ事を知りたうございます。今でも三十年のあひだに、其樣そんな廣いはたらき、廣い事業を成就なしとげ給ふ事が出來ます。私共わたくしどもが聖靈に滿みたされてる者でありますれば、又しゅイエスの御指圖おんさしづに從順に從ふ者でありますれば、しゅ私共わたくしどもの生涯のうち其樣そんなに働き給ふ事が出來ます。れども私共わたくしどもに不信仰がありますならば、又幾分いくぶんおのれために生涯を送ってゐますならば、必ずしゅはたらきを限りますから、しゅ其程それほどに働き給ふ事が出來ません。

みつの大切なる事

 使徒行傳でみつの大切な事を見ます。それなんであるかと申せば
   神 の みたま
   神 の ことば
   神 の 人
このみつであります。私共わたくしどもは傳道のために、このみつの事が一番大切であります。すなはち神のみたま滿みたされる事。神の聖言みことばを知り、又能力ちからもっそれを話す事。又全く神の人となる事です。これ餘程よほど大切であります。ある人はみたまを得ましたけれども、眞正ほんたうに神の聖言みことば受入うけいれませんから、罪人つみびとに對して神のすくひの道を解明ときあかしません。其爲そのために人を救ふ事が出來ません。又ある人は聖靈を幾分いくぶんか得ましたけれども、その品性に缺點けってんがありまして、眞正ほんたうに神の人ではありません。自分のうち種々いろいろの缺點が表はれて參ります。はたらきに出る時には祈り、又能力ちからもって說敎する事が出來るかも知れませんが、自分のうちで、又此世このよける用事を致します時に、だまだ全き神の人ではありません。どうぞ兄弟姉妹よ、このみつの事に御氣をつけなさい。

神 の 戰 爭いくさ

 使徒行傳を讀みますれば、おほいなる戰爭いくさの歷史を見ます。此處こゝで神の軍隊と此世このよの盛んな軍隊とが戰ってります。傳道する事は眞正ほんたう戰爭いくさです。傳道とは吞氣のんきはたらきではありません、生命いのちを賭けて一生懸命に戰ふ事です。使徒行傳でそれわかります。

 その點から見ますと、使徒行傳は舊約の約書亞ヨシュア記と比べる事が出來ます。約書亞ヨシュア記を見ますと、一章二章三章において、イスラエルじんは神が約束し給ふた、ちゝと蜜の流るゝ地を待望まちのぞみました。又四章におい其處そこはいりました。使徒行傳において同じ事を見ます。一章おい弟子等でしたちは、聖靈と聖靈のめぐみ待望まちのぞみ、二章おいそれ受入うけいれる事が出來ました。すなはちゝと蜜の流るゝ地にはいる事が出來ました。又約書亞ヨシュア記五章を見れば、すぐにエリコといふ城を落さなければなりませんでした。其樣そんむつかしいところすぐにありました。使徒行傳五章に同じ事があります。ペテロとヨハネが祭司のをさの前に訴へられまして、あるひは刑罰にひ、又は死罪にせられるかも知れぬやうな場合になりました。れども神はイスラエルじん勝利しょうりを與へ給ひましたやうに、弟子等でしたちにも勝利しょうりを與へ給いました。又約書亞ヨシュア記七章一節を見ますと、アカンのおほいなる罪があります。其爲そのためにイスラエルじんは敗北しました。使徒行傳五章に同じ事を見ます。すなはちアナニヤとサッピラのおほいなる罪があります。れども聖靈の御助おんたすけによって、かへっその時におほいなる勝利かちを得ました。續いて約書亞ヨシュア記を讀みますれば、その時から段々與へられた土地を得ました。段々勝利かちを得て進んで參りました。使徒行傳六章から見ますと同じ事で、段々勝利かちを得て進んで參りました。すなはち人々が救はれ、弟子等でしたちほかの國々に進擊しました。使徒行傳は新約の約書亞ヨシュア記であります。

 又使徒行傳と以弗所書エペソしょと比べて御覽なさい。このふたつふみは大槪同じ事を教へると思ひます。以弗所エペソ一章 二章 三章を見ますれば、信者は神の光を得、又心のうちしゅイエス・キリストを宿す事が出來る事を見ます。丁度使徒行傳一二章と同じ事であります。それから以弗所エペソ四章で、信者は如何どうして、日常の生涯に於けるちひさい事において、きよき生涯を暮す事が出來るかを見ます。使徒行傳二章をはりの部分で、同じ事を見ます。又以弗所エペソ六章に、基督キリスト信者は如何どうして戰ふかについて書いてあります。使徒行伝三章に同じ事があります。使徒行傳では私共わたくしどもが戰はねばならぬ靈的戰爭を、地上の方面から見ますが、以弗所書エペソしょでは天の方面からそれを見ます。さうですから使徒行傳で、人間の頑固な心、迫害、苦難くるしみなどの話を見ます。以弗所書エペソしょでは私共わたくしどもの靈の敵、すなは罪人つみびとの心をくらますサタンの力を見ます。又私共わたくしどもの靈的の武具を知る事が出來ます。うですから私共わたくしども以弗所書エペソしょの意味をわきまへて、使徒行傳を讀みますれば、使徒行傳の深い意味がわかります。



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