第三十九　破船と其その結果

第二十七章より第二十八章十節迄まで

　二十七章に於おいて、此この旅行中難船なんせんに遇あった事を讀みます。聖靈は其その破船の記事を四十四節書かせ給ひました。ペンテコステの記事を見ますと、大槪たいがい是これと同じ位ぐらゐの長さであります。或あるひはペンテコステの日の話が、少し短いかも知れません。然さうですから聖靈が此この章を書かせ給ふた意味が解わかりますれば、此この二十七章は餘程よほど大切であります。私共わたくしどもは破船に出遇であったやうな場合に、聖靈に滿みたされて居をらなければなりません。聖靈は唯たゞ傳道の爲ため許ばかりでなく、かういふ事の爲ためにも降くだり給ひます。又かういふ場合に於おいても、聖潔きよき生涯を送る事を得うる惠めぐみを與へ給ひます。

　パウロは今迄いまゝで三度さんど破船に遭あひました。（哥林多後書コリントこうしょ十一章廿五節『三みたび破船にあひ』）。今此この三度目の破船に於おいて、此この船中せんちうには色々の人が居をりました。兵卒も居をり、商人も居をり、又多分亞非利加アフリカの土人どじんも居をり、地位くらゐある人も船員等たちも居をりました。然けれ共ども神の攝理によりて、パウロは終迄をはりまで此この人々を統治すべをさめます。此この記事を讀んで見ますと、パウロは却かへって凡すべての人々の長かしらとなり、凡すべての人々はパウロのいふ事に從ひ、またパウロを信用しました。パウロは憐あはれむべき一囚人でありましたが、信仰の人でありましたから、斯かういふ苦難くるしみの時に、凡すべての人々から信用せられました。聖靈に滿みたされた人は、何時いつでも左樣であります。

　二十四節を見ますれば、パウロは危あやうい時に神を見、又神と交まじはりました。其それによりて他ほかの人々をも慰める事を得たのです。又パウロは懇ねんごろに此この人々に勸め、此この人々の友となりましたから、此この人々を助ける事を得ました。二十三章の十一節に於おいて神は『パウロよ勇いさめ』と彼を勵まし給ひました。パウロは神の此この言ことばを心の中うちに留とゞめて置いたに相違さうゐありません。今此この暴風あらしの時に、パウロは此この言ことばを他ほかの人々に傳へて彼等を勵まします。（廿二節及び廿五節『今われ爾曹なんぢらに勸む 勇め (And now I exhort you to be of good cheer)』『是故このゆゑに人々勇めや (Wherefore, sirs, be of good cheer)』）。是これは英語では餘程よほど意味が深くて、日本語には其その意味がよく表あらはれて居をらぬと思ひます。神と交まじはる人は他ほかの人々を慰める事を得ます。

　二十四節の終をはりに『且かつ神は爾なんぢと偕ともに舟にある者を悉ことごとく爾なんぢに賜たまふと曰いへり』とあります。是これは大おほいなる賜たまものであります。多分パウロは其その船に乗った時から、其その心の中うちに其その船に乗って居ゐる二百七十人餘あまりの者の爲ために重荷を感じ、其その人々の爲ために禱告とりなしの祈禱いのりを献げた事と思ひます。未まだ暴雨あらしの起らぬ中うちより祈り出して居ゐたでせう。神は今其その祈禱いのりに答へて『悉ことごとく爾なんぢに賜たまふ』と仰おほせ給ひます。然さうですから此この二百七十六人が救はれたのは、多分唯たゞパウロの祈禱いのりの答であったでせう。此この救すくひは身體からだの生命いのちの事でありました。神は度々たびたび卿あなたの祈禱いのりの爲ために、他ほかの人々の身體からだをも救ひ給ひます。其その人々は悔改くいあらためないかも知れませんが、身體からだを助けられます。況まして私共わたくしどもが重荷を負ふて祈って居をりますれば、神は靈れいの生命いのちを與へて其その靈魂たましひを救ひ給ふに相違さうゐありません。『且かつ神は爾なんぢと偕ともに舟にある者を悉ことごとく爾なんぢに賜たまふと曰いへり』。どうか此この約束を握って、自分の家族の爲ため又は親戚の爲ため、或あるひは友達の爲ため隣人となりびとの爲ために、禱告とりなしの祈禱いのりを献げたう厶ございます。

　四十四節の終をはりに『此かくの如く皆すくはるゝ事を得て岸に登れり』とあります。是これは神の約束の成就でありました。他ほかの人々は是これがパウロの祈禱いのりの結果であるとは思ひませなんだらうが、是これは實際祈禱いのりの答でありました。卿あなたの家族の中うちに信仰の人のある事は、家族中かぞくちうの幸さいはひであります。村の中うちに一人の信仰の人のあるのは、其その村中むらぢうの幸さいはひとなる筈はずであります。其その人の爲ために其その家の者或あるひは其その村の者を神は救ひ給ひます。ソドムという非常に惡い町に、十人の義者たゞしきものがあるならば、神は其その十人の爲ために其その町を救ふと曰いひ給ひました。どうぞ私共わたくしどもも他ほかの人々の爲ために信仰の生涯を送り、斷えず神と偕ともに步みたう厶ございます。私共わたくしどもも此このパウロのやうに、他ほかの人々の苦難くるしみの時に、其その人々の爲ために重荷を負はなければなりません。

　二十八章に於おいて、柴を集めた事によりてリバイバルが起ったという、面白い話を讀みます。此處こゝで信仰の人がもう一度他ほかの人々を助ける事を見ます。人々が火を燃おこしたう厶ございましたから、パウロは其爲そのために柴を集めました。即すなはち喜んで身體からだを動かし、手を貸して他ほかの人々を助けます。其時そのときパウロは必ず愛を以もって、また喜ばしき顏付かほつきをして働いたに相違さうゐありません。其その働はたらきの結果としてリバイバルが起りました。即すなはち六節の終をはりに、パウロは尊あがめられ、八節に於おいてパウロは其その島の長をさの父の爲ために祈って、其その祈禱いのりが答へられましたから、九節に於おいて多數おほくの人々も參りまして癒いやさるゝ事を得ました。パウロは裁判を受けし時福音を說いたと同じやうに、今此この島に於おいても福音を話しました。終をはりに彼等は禮を厚くしてパウロ等たちを敬ったとありますから、必ず悔改くいあらためた者もあったに相違さうゐありません。

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