第二十九 續ける大戰爭
成功と迫害
イコニオムはアンテオケから四十里位離れた所であります。又其國は當時未だ開けて居らず、道は大變惡う厶いましたから、多分其四十里の道程に六日間ほど懸ったと思ひます。六日間此山路を步いて、殆んど休む處もありませなんだ。此邊は山賊の居る處でありましたから、大なる困難の旅行でありました。然れ共パウロは福音の爲に、喜んで其處に旅して參りました。
此『道を傳へ……多く信ぜしめたり』という言は、英語では多の人が信ずる事が出來た程に宣傳へたといふ意味で、即ちもし此時此二人が聖靈の智慧を用ひずして、福音を宣傳へましたならば、多分信ずる者が起らなかったでせうが、聖靈の智慧と其巧を以て宣傳へましたから、其爲に多の人が信じたのであります。私共は是によって敎へられなければならぬ事は、福音さへ宣傳へれば、どんな言を用ひても、どんな事を語っても構はないと思ふてはなりません。聖靈の智慧に從ひ、其巧を以て向ふの人の心に當嵌る言を以て宣傳へなければなりません。醫者が病人を診察する時に、心の中にどの位心配がありませうか。其人を療治して成功しますれば、其人の生命を救ふ事が出來ますから、氣を附けて藥を製へ、いろいろの方法を盡して療治を致します。傳道者も其通りに、どうかして適當な言、適當な使命を宣傳へる事が出來るやうに、始終心を用ひなければなりません。罪人は死に近づいて參りますから、どうして其心を引き、其人を救ふ事が出來るかといふ事は、大に心を用ひなければならぬ事であります。然うですから私共傳道者は、何時でも祈禱を以て說敎の準備をします。訪問に出懸ける時にも、祈禱を以て其人に適當な聖書の言や、又話すべき事を示されん事を求めなければなりません。傳道之書十二章九節『また傳道者は智慧あるが故に恒に知識を民に敎たり 彼は心をもちひて尋ね究め許多の箴言を作れり 傳道者は務て佳美き言詞を求めたり その書しるしたる者は正直して眞實の言語なり 智者の言語は刺鞭のごとく會衆の師の釘たる釘のごとくにして一人の牧者より出し者なり』(九〜十一)。眞正の傳道者は此やうに、適當なる知識と言を神に求めます。以賽亞書五十章四節『主ヱホバは敎をうけしものゝ舌をわれにあたへ言をもて疲れたるものを扶支ふることを知得しめたまふ』。またその爲に何をなし給ひますかならば『朝ごとに醒しわが耳をさまして敎をうけし者のごとく聞ことを得しめたまふ』。然うですから人を救ひたい人は、斷えず適當なる言、適當なる譬、適當なる箴言を神に求めます。
此時に多の人が信じましたが、もう一度猶太人の爲に迫害が起りました。然れども
の英語の譯を見ますと、其爲に(therefore)即ち其迫害があった爲に、彼等は久しく彼處に留り大膽に福音を宣傳へました。迫害がありましても、福音の門戸は開かれたと思ひましたから、久しく其處に留り、主に賴って憚らず道を傳へましたが、主は彼等と共に働いて、彼等を助け給ひました。丁度馬可傳十六章廿節にある通りでありました。『弟子たち徧く福音を宣傳ふ 主も亦かれらに力を協せ』。是は幸福であります。弟子等が福音を宣傳へる時に、主は天より力を協せ給ひました。希伯來書二章四節『神も亦その聖旨に循ひて休徵と奇跡および萬殊の異能と分予ふる所の聖靈を以て彼等と偕に證せり』。私共も大膽に、迫害に頓着せずして證致しますれば、必ず此やうに神は一緖に證し給ひます。
然うですから此町の人々は、前に讀みましたやうに、此二人によりて動かされました。
十三章四十四、四十五節のやうな結果がもう一度表はれました。どうぞ私共もかういふ力を得たう厶います。若し子供が空氣銃を以て其處等を打ちましても、唯近所の人が其音を聞くだけで、其を聞いても何とも思ひません。然れども若し獨逸軍が十何吋もある大なる大砲の彈丸を此町に打ちましたらどうでせう。町中の人が其を聞いて、驚き狼狽ませう。私共の今迄の傳道は、丁度其子供の空氣銃のやうな傳道ではありませんでしたらうか。パウロの傳道は其大砲のやうな傳道でありました。此處にあるやうに、眞の傳道は其町中の人々を動かす筈であります。然るに私共の傳道によりて、此神戶の中のどれ丈けの人々が動かされましたらうか。どうぞ神に祈って、此やうな傳道の力を求めたう厶います。
此二人は斯樣に大なる戰をなしました。十三章及び十四章を見ますと、大なる戰の起った事を見ます。彼等は眞正の戰に出る心を以て參りまして、惡魔と罪に對して戰ひました。神に依賴んで、如何な迫害がありましても、大膽に進んで傳道致しました。どうぞ私共も此やうに、聖靈の火を得たう厶います。
然うですから此町は眞正に動かされて、誰も皆福音を聞きましたが、然し福音を聞いた異邦人が悉く其惠の音信を受入れたのではありません。猶太人が其を拒みましたやうに、多くの異邦人も其を拒み、却て其使者を殺さうと思ひました。然うですから一方には福音によって愛と喜が起りますが、然うでなければ一方には嫉と憎みが起って參ります。此人々は其爲に、殘酷に此使徒等を取扱ひたう厶いました。
若し人々が福音を受入れなければ、他の處に行って宣傳へよといふ、主イエスの命令に從って、此人々は今ルカオニヤの方に參りました。此地方は實に野蠻な所であって、少しも開けず、其處に行く事は危險の事でありました。然れども此二人は、キリストの愛に勵まされて其處に行き、生命を賭けて福音を傳へました。此人々は今迄福音を傳ふる事の爲に、迫害せられて苦められましたから、かういふ野蠻人の中に於ては、却て休む方がよいではないかと思はれますが、併し此二人は休む事が出來ず、其處に於ても福音を宣傳へました。唯ルステラ、デルベのやうな町許りでなく、其周圍の地に至る迄福音を傳へました。即ち町を出でゝ村々をも廻り、或は家々を尋ねて主イエスを傳へました。
テモテは此邊の信者でありました。十六章一節を見ますと、『斯てパウロはデルベ及ルステラに至れり』、即ち再び其地方に參りました。『此にテモテと云る弟子あり』、然うですから或は今此時にテモテが悔改めたのかも知れません。また二十章四節を見ますと、他にも此時から忠實にパウロに從った信者が起った事を見ます。『彼と偕にアジアまで至し者は……デルベのガヨスとテモテ』。即ちガヨスは此デルベの人でありましたから、多分今此時の傳道によりて救はれた人と思はれます。
跛癒さる
此十四章にはイコニオム、ルステラ、デルベの傳道が書いてありますが、今此八節以下の一段に於てルステラに於て、主の力ある御業の起った事が書いてあります。
九節の『聽をりしが』といふ言の原語を見ますれば、集會毎に度々來てパウロの說敎を聞いた事を表はします。
『パウロ目を注て』。パウロの目の力がもう一度記されてあります。其人の顏の色によりて、幾分か其人の心が解りました。而して又癒さるべき信仰のある事をも視ました。多分パウロは癒しの事に就て說敎しませなんだけれども、此人は主イエスが其樣な力ある救主であれば、此私の身體をも癒し給ふ事が出來るという思が、起った事と思ひます。度々かういふ事があります。今迄神を知らなかった人にても、救主の事を聞いて、其心の中にこんな考、こんな信仰が起る事があります。又其時に其傳道者の心の中に信仰がありますれば、神は其祈禱によって其人を癒し給ひます。其人が未だ洗禮を受けませんでも、又福音の知識が淺う厶いましても、神は其人の信仰に從って、身體の癒をさへも與へ給ひます。
然うですから彼は他の人が聞かないやうな靜かな聲で、此事を致しません。大聲で立よと命じました。是は信仰の命令であります。パウロは惡魔に對して其力を打破る事が出來るといふ、信仰を有って居りましたから、今此人を惡魔の手より救ふ事が出來ると思ひました。又彼には主イエスに對して信仰がありましたから、今主イエスの聖言に從って、此樣に信仰の命令を與へました。
此時に此跛は早速癒され、又早速豐なる生命と力を得ましたから、踊る事を得ました。喜悅の餘り踊上りて步みました。原語を見ますと、『踊上りて』と云ふのは一度の事で、其時から力を以て、疲れずに步く事を得たのです。即ち躍り上った事は一度の信仰の働で、步むとは其から引續いての信仰の働であります。神の救は今迄決して出來なかった事をも、出來るやうに致します。私共傳道者は罪人に對して、何時でもかういふ信仰を有って居る筈であります。罪人は罪の爲に弱う厶います。義き行みをなす事も、人を助ける事も出來ません。然れども救はれますれば、今迄出來なかった事が出來るやうになります。性來の跛へたる者が踊る事を得、又靜かに步む事をも得ました。
パウロ祭られんとす
福音をきゝ、又其力に驚かされた人々が、此やうに傳道者を敬ふのは、是は普通の事であります。十章廿五節にも同じやうな事を見ます。『ペテロの入來れる時コルネリヲ彼を迎へ其足下に伏て拜り』。然しペテロは斷然其を斷りました。又默示錄廿二章八節にも同じ事があります。『我ヨハネ此等の事を見聞せり 之を見聞せしとき我にこれらの事を示せる天使の足下に俯伏して拜せんと爲ければ』。然れども天使は其を拒み、却てヨハネを警めました。私共の心の中に若し肉に屬ける考がありますれば、かういふ尊敬を喜んで受入れます。是は度々傳道者が倒れる原因であります。聖靈の力を以て愛の福音を宣傳へましたから、人々が之を尊び敬ふのは自然の事でありますが、若し其時に神に榮を歸せずに、自分が其尊敬を受入れますれば、それは丁度十二章廿二、廿三節にあった事と同じ事であります。是は恐ろしい罪であります。『民聲を揚ていひけるは 此は神の聲なり 人の聲に非ず ヘロデ榮を神に歸せざるにより主の使者たゞちに彼を擊しかば彼は蟲の爲に噬れて氣絕ゆ』。私共は此恐ろしい罪を逃れる爲に、說敎をしました後、殊に傳道に成功しましたならば、早速自分の密室に歸って、靜かにもう一度神を求めなければなりません。傳道に出懸る時にも必ず祈らなければなりませんが、傳道より歸りました時にも、再び神の聖聲を求めなければなりません。聖靈に滿された傳道者は、必ずこんな禮拜、こんな尊敬を斷然斷ります。又周圍にある人々の愛と尊敬が此樣にまでなれば、必ず其人々に忠告致します。
十一節を見ますと、人々はルカオニヤの方言で申しましたから、此二人には其事が解りませなんだ。ゼウスの祭司が段々準備して居た事をも、彼等は知りませなんだが、今其譯を聞きましたから、走って出ました。是は決して喜ぶべき事でなく、大に悲むべき事である事を思ふて、悲の兆として衣を裂いて走って出ました。かういふ事は神の御名を汚す恐ろしい罪でありますから、衣を裂いて之を悲みました。
パウロの說敎
『我儕も亦なんぢらと同情をもつ所の人なり』ペテロは十章に於て同じ事をいひ、天使も默示錄廿二章に於て同じ事をいって、其を斷りました。肉に屬ける考を有って居る人ならば、かういふ事を受入れて、其によりて人を導かうなどと思ひませうが、パウロは自分の爲に少しも榮光を願はず、唯神にのみ榮光を歸したう厶います。亦此人々の救はれる事を願ひますから、今此時に說敎しました。少しも神の言を知らず、唯偶像を敬って居る人々に對して、熱心に神の事について說敎致します。
此說敎の題は何ですかならば、『活る神』といふ題であります。パウロは平生救を宣傳へますが、此時には救でなく、活る神に就いて說敎しました。是は此時に應じた說敎でありました。私共も或時には特別に活る神について力を入れて說かねばならぬ事もあります。此說敎に三の項目があります。第一は神の力です。即ち『天と地と海および其中の萬物を造り給へる』事を說きました(十五節)。國々に色々の神があるのではなく、天地萬物を造り給ふた神が、凡の物を支配し給ふ事を申しました。第二の項目は神の寬容です。即ち
神は今迄の罪を見給ひますけれ共、寬容を以て罪人を取扱ひ給ひました。どうかして其罪人を幸福に導かうと思ふて、久しく忍んで居給ひました。第三は神の恩惠であります。即ち
又其惠の外部の兆は何であるかならば、或は食物或は天氣であります。神はかういふものを與へ給ひました。何の爲かなれば、人を愛し給ひますから、人に恩惠を表はす爲に之を與へ給ひました。例へば收穫の時などは格別に神の恩惠を知るべき時であります。
パウロは此三の項目について說敎して、神に歸れよと悔改を勸めました(十五節終)。神の力と惠と寬容は何の爲ですかならば、罪人を神に歸らしめんが爲であります。
パウロは此やうに惠を以て、神を知らぬ人々に神の道を宣傳へました。此時其罪については格別に申しません。後に信者に對して、他の方面より同じ事を書いた事がありますが、其時には罪を示しました。羅馬書一章廿節を御覽なさい。『それ人の見事を得ざる神の永能と其神性とは造られたる物により創世より以來さとり得て明かに見べし』。他の默示がなくとも、此創造物によりて神の力と惠を知る筈でした。『是故に人々推諉べきやうなし』。ルステラの人々も申譯がありません。『既に神を知て尚これを神と崇めず亦謝する事をせず反て其思念を亂し其愚なる心蒙昧なれり』。ルステラに居る人々も、斯樣に神を知る事を斷り、又其爲に其愚なる心は暗くなりました。『自ら智と稱へて愚魯なる者となり 朽壞ざる神の榮光を變て朽壞べき人および禽獸昆蟲の像に似す』(以上羅一・廿〜廿三)。是は此人々の眞の有樣でありました。然れ共今彼等は此事よりも、先づ神の惠を宣傳へました。後に悔改めましてから、今迄の罪のひどい有樣を示します。然れども今此時には人々の心を引く爲に、かういふ事よりも先づ神の恩惠を宣傳へます。
石にて擊たる
パウロは舊約全書に表はれて居るヱホバを宣傳へ、偶像を敬って居る人々には偶像を捨てゝ、此活けるヱホバを敬ふべきである事を說敎しました。是はヱホバを敬ふ猶太人が喜ばねばならぬ筈でありますが、多の猶太人は諸方より來て、パウロに反對し之を殺さうと思ふて迫害致しました。
石にて擊たれる事はひどい事で、是を受ければ當然死ぬる筈であります。パウロは其生涯の中に一度石にて擊たれました。哥林多後書十一章廿五節に其事を云って居ります。石にて擊たれる事は、殘酷な事の中で最も殘酷の事で、パウロは今此ルステラで石にて擊たれた事を、何時迄も覺えて居りました。私共は播いた種を必ず收穫れなければなりません。パウロは先に本心に逆って、ステパノが石にて擊たれる事に賛成しました。神は其罪を赦し給ひましたけれ共、今パウロは先に自分が播いた種の收穫を得て、自分も亦石にて擊たれました。
然れども神は其時に確實な恩惠を彼に與へ給ひました。前にも申しましたやうに、迫害の時は特別に恩惠の時であります。此時に神は石にて擊たれし愛する僕に、特別なる恩惠を與へ給ひました。即ち哥林多後書十二章二節以下に書いてある、彼が第三の天に携上げられた經驗は、多分此時に經驗した事であります。此時石にて擊たれて殆んど死んだ有樣で居た時に、天が開かれて神の御前に出ました。『我キリストにある一人の者を知り(是はパウロ自分の事であります) 此人十四年前に(是は丁度ルステラに傳道した、今此時に當ります)携へられて第三の天に至る 或は肉體に在しか我知らず 或は肉體の外に在しか知ず 神しり給ふ』。此時パウロは死んだのか、或は死んだのでないか、誰も知りません。或人は此使徒行傳十四章について、此時に一旦死んだのですが、後に甦ったと申します。パウロは其を自分は知らぬと申します。『かれ挈へられて樂園に至り言べからざる言即ち人の語るまじき言を聞り』(以上哥後十二・二〜四)。多分パウロは其時死人となって、こんな惠を經驗しましたでせう。兎に角新しく神の榮光を見る事を得ました。ステパノのやうに石にて擊たれ、ステパノのやうに神の榮光を見ました。おお私共神の僕は身體の苦を恐るべき筈ではありません。
然うですから八節から此處迄を見ますと、サタンは二の方法を以て働を妨げたう厶いました。第一は傳道者を高く上げる事によりて妨げたう厶いました。然れ共パウロは斷然其を拒んで、其試誘に勝利を得ました。然うですから第二にサタンは、神の僕を苦しめる事によりて、其働を妨げたう厶いました、其爲に神の僕を殺しでも致します。此二の事は何れも危い事であります。私共は今格別に此第一の方法によりて試みられます。今の時代には惡魔は神の僕を殺さうとは餘り致しません。却て傳道者を高く上げる事によりて陷れたう厶います。然うですからどうぞ此事を常に覺え、人間の譽を恐れて、惡魔の試誘に勝利を得たう厶います。
此時に人々はパウロは『既に死たりと意ひ邑の外に曳出』しました。賤しい死體でありますから、死にし犬の如く町の外に逐出しました。又弟子等もパウロは最早死んだと思ひ、其愛する使徒の死體を葬る爲に參りまして、其周圍に立ちました。其時に或は淚の中にパウロの爲に感謝したかも知れません。所が弟子等が其死體の周圍に立って居る時に、驚くべき事が起りました。
即ちパウロは起き上りました。死んで邑の外に曳出されたパウロが目を醒して起ちました。弟子等は大に喜びました。喜悅の爲に神を讃美し、皆一緖に聲を揚げて感謝しましたでせう。是は眞正に神の奇跡でありました。若し此時にパウロが眞正に全く死んで仕舞ったのでありますれば、元より是は大なる奇跡です。然れ共死んだのではなかったのでありましても、斯樣に起き上って自ら町まで步む事の出來たのは、是は必ず奇跡に相違ありません。又其翌日の朝、十里の道を自ら步いて旅を致しましたが、是は眞に奇跡ではありませんか。
第一傳道旅行の終
パウロは生命を賭けて熱心に福音を宣傳へ、又新しく神の榮光を見ましたから、尚一層力と熱心を以て其福音を宣傳へ、『多の人を弟子となし』ました。
而してルステラに返りました。先に其處で迫害を受け、殺されんとしましたが、其爲に尚一層重荷を負ひ、又其處に迫害の中に居る愛する信者等にもう一度面會したう厶いましたから、もう一度生命を賭けて其地に歸って行きました。又イコニオム、アンテオケにも參りました。先に此三ヶ處に於て迫害を受け、何處に於ても殺されんとした所でありますが、大膽に其處に歸って、弟子等の信仰を堅うしました。
此『えらび』といふ字は原語では敎會の選擧で撰ばれる事を表はします。
此時にもう一度斷食して時を費して祈禱をしました。もう一度祈禱を以て聖靈の下らん事を願ひました。其處に定まった傳道者を置く事が出來ませんけれ共、主が其處の羊を養ひ給ふ事を信じて、『主に之を託』ました。
是はパウロの第一傳道旅行の終であります。此傳道旅行は多分五年間の旅行でありました。今十三章二節三節に於て命ぜられた働を終りましたから、滿足を以て歸る事を得ました。どうか私共も命ぜられた働を終ったといふ滿足を得る迄、堪へ忍んで傳道者の工をなしたう厶います。然れ共最早命ぜられた働を終ったといふ確信がありますれば、どうか靜かに神の前に俟望んで、新しい働を御求めなさい。以西結書一章十四節を御覽なさい。『その生物奔りて電光の如くに往來す』。此生物とは聖靈に滿された働人を指します。其が電光の如く神の命令を成就して、電光の如く神に歸ります。今此二人は其如く歸る事を得ました。
然うですから神の譽の爲に、今迄の傳道の事を認はし、又信仰の門戶が開かれた事、神が喜んで異邦人を救ひ給ふ事、何處でも異邦人を引つけ給ふ事を、アンテオケにある信者等に話しました。
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